港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。
▶前回:「結局、美人は得をする」認めたくないけど、厳しい現実に直面した女が全顔整形した結果…
Customer4:離婚を選べない母・浜本葵(41歳)/整形を反対され家出中の娘・浜本凪(16歳)
定休日のBAR・TOUGH COOKIES
個室にいる凪が、ともみの胸を借りて泣きじゃくっていた頃、フロアでは——凪の母・葵(41)もまた、涙をこぼしていた。娘を追い出すような言葉を投げつけてしまった後悔を、友人である御堂愛(みどうあい)に告白しながら。
「…その顔をもう見たくないって。この部屋から出て行きなさいって…凪に言ってしまったその時、自分がどんな目をしていたかと思うと、怖くて恐ろしくて、本当に凪に申し訳なくて…なんてことを言ってしまったんだろう、って…」
唇を噛みしめうつむいた葵に、愛はいたたまれない気持ちになった。それでも、今守られるべきは凪だと、心を鬼にして言った。
「葵がずっと、宏太郎さんの浮気に苦しんできたのは知ってる。だから彼に似てきた凪の顔がイヤになる気持ちも全く理解できないわけじゃない。でも悪いけど同情はできないし、間違ってると思うよ。
どんな事情があったとしても、離婚せずに今日まできたのは、あなたの選択であり意志でしょ?それなのに、凪を守るために離婚しなかったとか、恩着せがましく凪本人に言うなんて、絶対に違う」
葵の夫は、浜本宏太郎。代々閣僚という家に生まれ、46歳の今、自身も未来の総理大臣候補と言われている日本中に名の知られた国会議員だ。俗に言う“夜の仕事”をしていた葵と銀座の高級クラブで出会い、親の反対を押し切り結婚した。
けれど、一人娘の凪が小学校に入る頃に、宏太郎は愛人を作り、事務所と称した別宅を構えたのだ。
その話を当時葵から聞いたとき、愛はすぐに離婚を勧めた。けれど葵は、離婚はしない、との一点張りだった。
有名政治家を夫に持つがゆえに、何か特別な事情があるのかもしれないと、愛も深くは追及してこなかったのだが。
「それに…凪に顔のことを言ったのも最悪だし最低だよ?そもそも誰が産んだ子なのよ。
宏太郎さんを憎むのはわかるけど、そんなこと言うくらいまで追い込まれるなんて、凪にとっても悲劇だから。凪のためにも今すぐ離婚して捨てるべきだよ。愛人と10年も過ごしてきた男なんて」
早口にまくしたてた愛が、その怒りのままに白ワインを乱暴に口にするのを見て、葵が弱々しく笑った。
「相変わらず、愛の正論はキツイね。全てがその通りで、弁解の余地もないんだけど」
「そうね。100%以上、葵が悪いから」
「でも、愛人じゃないのよ。宏太郎さんのお相手は」
「どういうこと?」
「……本気の恋、ってやつらしいの。彼女と出会って、“運命の人”は私じゃなくなったみたい」
「…それ、宏太郎さんが言ったの?」
「そう。しかもただの恋じゃなくて、日本の未来を変えるための政策を同レベルで語り合える、同志、ってやつらしいわ」
葵の夫の愛人…夫曰く、“運命の人”で“同志”とやらは、現在44歳。イギリスのオックスフォード大学出身の、国際政治学者だった。
世界で紛争が起こったり各国の首相が変わったりするタイミングで、テレビ番組やネット記事に出てくるその顔を愛も知っていた。
しかし、ワイドショーのコメンテーターなどになりがちな、いわゆる“美人政治学者”として露出が増えるようなタイプではなく、政策提言などにも長けた“本物”の学者としての信用が高く、葵の夫以外にも意見を求める政治家は多いという。
“運命の恋”なんて頼りない表現を信じ続けられる程、愛も葵も幼くはない。
けれど、葵と結婚する時、彼女が僕の運命の人だと誇らしげに世間に発表しておきながら、“運命の人”を恥ずかしげもなく切り替える浜本宏太郎という男に、怒りを通り越し呆れてしまった。
葵は愛に、宏太郎の愛人について詳しく話したことはなかった。だから愛はそれを、ただの女遊びだと思い込み、宏太郎が長い間、たった一人の女性に入れ込んでいたとは知らなかったのだ。
「…運命の人って何人もいていいわけ?」
この記事へのコメント
姑は我が子の不祥事を知っているんだろうか。明るみになったら、本当に支援者いなくなるよ。葵や政治学者の女性は喋らないだろうけど、周りから漏れることもあるからね。