港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。
▶前回:「夫と同じ空気を吸うのもイヤ」長年夫婦仲は悪いが離婚できない41歳妻の心の叫びとは
Customer4:離婚を選べない母・浜本葵(41歳)/整形を反対され家出中の娘・浜本凪(16歳)
定休日のBAR・TOUGH COOKIES:22時過ぎ
「……太りそうなやつばっかりじゃん」
定休日のBAR・TOUGH COOKIESの個室で、ぼそりとそうつぶやいたのは浜本凪(16歳)。店長のともみが、沢山のスナック菓子を目の前のテーブルに並べたことへの反応だ。
「お腹すいてないかなと思って。これ、一緒に働いてる子のストックなんだけど。あ、でももしかして凪ちゃんって、こういうスナック菓子は食べないって感じ?」
代々国会議員というお家柄で育ったお嬢様だけに、お菓子も厳選されたオーガニック系のものだけを…などという育ちなのかと、からかうつもりはなく聞いたともみの問いに、凪が笑い出した。
「お母さんは確かにそんな感じで、食へのこだわりもすごいけど、私は食べるよ。お母さんの前じゃなければ」
そう言いながら、いただきま~す、と凪がバリッと開けた袋は、ルビーが今一番お気に入りのハラペーニョ風味の厚切りポテトチップスで、“おやつ棚”に買い足して戻しておかないとルビーが拗ねてしまうな…と、ともみは脳内メモに記録した。
おしぼりを使うように勧めつつ、取り皿も持ってくる?と聞いたともみに、凪が首を横に振る。
「…ごめんなさい」
「何が?」
「このお菓子とか、その他のいろいろも。気を遣ってくれてるんだよね。…私がお母さんに殴られたから」
ありがとうございます、と頭を下げた凪のキレイなお辞儀には、幼い頃からきちんとしつけられてきたのだろうと思わせる育ちの良さが感じられた。
「凪は本当におとなしい子だった」と、愛が言っていたことを、ともみが思い出していると、さっきの話だけど、凪が話題を変えた。
「ともみちゃん、さっき言ってたよね。元アイドルだったって。あの話、本当?」
「本当だよ」
え~すご!と凪が興奮し、少しは元気が出たかなと、ともみはホッとした。調べてみてもいい?と聞かれて、所属していたグループ名を教えると、凪はすぐに携帯で検索した。
「わ!ほんとだ、ともみちゃんだ!え~わか~い!かわい~!」
あ、今もめちゃくちゃ美人さんだし若いけどね、とフォローされてともみは苦笑いする。
「アイドルの時は、ともみちゃんじゃなくて、AN(あん)ちゃんっていう芸名だったんだね。グループ名は…クインツ…ジーって読むのかな?どういう意味?」
QUINTZ-G-(クインツ・ジー)の発音の良さに、凪がどんな英語教育を受けてきたのかが伝わってくるな、とともみは思いながら答えた。
「私たち、5人組だったから、5人の演奏者って意味の Quintet(クィンテット) と、透明で結晶が美しいクリスタル――Quartz(クォーツ)を掛けた造語なんだよね。
そこにガールズの“G”を加えて、QUINTZ-G-。
美しい5つのクリスタルが集まって、輝きを放つようなガールズグループ。そんな意味を込めた名前だったの」
「なんか…ややこしいわりには、ちょっとダサくない?」
素直な凪の感想に、ともみも、だよね、私もそう思う、と笑う。
「辞めたのはいつ?」
「21歳の時に辞めたから、もう7年経つね」
「なんで辞めようと思ったの?」
「単純に才能なくて、もう限界だと思ったから」
― それだけが理由じゃないけど、ね。
この記事へのコメント
のこの連載は、片手間で飛ばし読みしたり国語力が足りない人には難しくて感想も出てこないだろうなとは思います。
ともみが言うように凪は本当にお母さんが好きなんだよね。そして多分普通に家庭の温もりとか家族団欒的なのが必要だったのかな。何よりもっと父親からの愛情を受けたかったと思う、自分に対しても母親に対しても。