港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。
▶前回:「え?これがあなたの彼氏?」30歳経営者だという男の写真を見て、女が絶句したワケ
Customer4:離婚を選べない母・浜本葵(41歳)/整形を反対され家出中の娘・浜本凪(16歳)
「私、お母さんに反対されても絶対整形するの」
と言った、浜本凪(16歳)の母が、TOUGH COOKIESに到着したのは、凪が泣き始めてから30分ほど経ったころだった。
浜本葵、41歳。BAR・Sneetの常連客である愛が、銀座のクラブで働いていた頃の同僚だという。
「うちの娘が、ご迷惑をかけてしまって…本当に申し訳ありません」
そう頭を下げた後、愛と凪のテーブルへ歩いていく葵を見送りながら、ともみは思った。
― キレイな人だな。
凪が、うちのお母さんもパッチリ二重、と言っていたから、バラのように華やかで主張の強い容姿を想像していたが、和の花のような雰囲気の凛とした美人。ともみは葵の、無理な若作りをしていない、年相応の美しさと佇まいに好感を持った。
葵の41歳という年齢は、去年、葵の夫が『妻の40歳の誕生日に。いつもありがとう』という文章を、夫婦写真と共にSNSにアップしていたのをたまたま見たという、愛の記憶によるものだ。
「愛人を囲っておきながら、よくもまぁ、堂々と愛妻家アピールできるよね」
アタシがマスコミにリークしてやりたいわ、と愛が顔をゆがめて吐き捨てたのは、凪の父親であり葵の夫である男が、有名政治家だからだ。
浜本宏太郎(ひろたろう)、46歳。祖父も父も閣僚を務めてきたという、三世“イケメン”議員。ともみに言わせれば、あくまでも政治家の割にはイケメン、というレベルだが、その人気は高く、総理大臣になって欲しい政治家ランキングではいつもトップ3にランクインしている。
― ゆくゆくはファーストレディってこともあり得るのか。
愛の話によると、葵は、夫の支援者の会を抜け出して、このBAR・TOUGH COOKIESに駆け付けたらしい。オフホワイトのシルクシャツに紺のタイトスカートで、そのスカートとのセットアップに見えるノーカラーのジャケットを手に持っていた。
華美な装飾はなく、アクセサリーは耳元と首元のパールだけ。品のある装いは、政治家の妻という役割で生きてきた中で、作られたものなのだろうか…などと思いながら、ともみが葵のおしぼりと水を準備していると、パァン、と何かが破裂したような音がした。
「ちょっと!!葵!?」
興奮した様子で立ちつくしている葵の肩を、愛が押さえつけるようにして、座らせようとしている。その対面に座り、自分の頬に手を当て呆然としている凪。どうやら、葵が凪の頬を叩いたようだった。
「そのピンクの頭は何?しかも、六本木をふらふらしてたなんて、誰かに見られたらどうするつもりだったの!?」
微かに震える母の声を、我に返った凪が笑った。
「私今、生まれて初めて、お母さんに殴られちゃった」
あえて母の神経を逆なでしているような、そのわざとらしい口調が、凪の泣き顔と想いを知ってしまったともみには、痛々しく感じてしまう。
「誰かに見られたら、か。確かにそうだよね~。六本木で遊んでるピンク頭のJKが、お偉い政治家の娘だってバレちゃったら、大変なことになっちゃうもんねぇ」
ふざけ続ける凪と、怒りに沈んで立ちつくす葵。2人を交互に見やった愛が、大きなため息をついてともみに言った。
この記事へのコメント
この辺りの表現とかさすがですよね。葵さんがどんな感じの方なのか、こんなに短い文章で見事に読者に伝えている。すぐにイメージわきました!
東カレでよくあるYOKO CHANのワンピにマノロブラニクのパンプスを履いてる等のわざとらしい表現をしてないところもまたいいですね。...続きを見る
※ 和の花/洋の花は花道でも使う表現です。揚げ足取りのレスはお控えください。