― もしかして、今、私、からかわれてる…?
ミチが大輝と自分のことをどこまで勘づいているのか、ともみにはわからず、恥ずかしい気持ちもあるけれど、それよりも、ミチへの興味が勝った。
「今日のミチさん、なんか変です」
「何が?」
「よくわかんないですけど…そもそも、世の中に彼女の形っていろいろあるんですか?」
「本人同士が納得してれば、そりゃあるでしょ。大人なんだから」
「私が思う彼女っていうのは、唯一の人。好きな人に愛される…ただ一人の人が彼女です」
― 私は、彼女になれなかったけど。
未だに…その事実を思う度、未練がましく胸が痛む。それをごまかすように、ミチに笑顔を向けると、既に飲み干していたジントニックのグラスが、サービス、と新しいものに差し替えられた。
― ほんと、ミチさんって。
まるで心が読めているかのように、さりげなくタイミングを合わせてくれる人なのだと、ともみは改めて思った。
「…なんだよ?」
ともみにまじまじと見つめられたミチが、眉を寄せて睨むが、その強面がちっとも怖く感じられず、ともみは笑ってしまった。
「やっぱり…ミチさんがどんな女の人を好きになるのか、ホントに気になるなって」
「…まだ終わってねぇのかよ、その話」
ミチの呆れた口調にも、ともみの好奇心は止まらなかった。
「ミチさんってめちゃくちゃ大事にしそうですよね。一度好きになったら」
「……は?」
「もしかして結構恋愛体質だったりします?あっ、まさか、好きな人には甘々の甘えん坊だったりして?」
「……マジで鳥肌立つ。やめてくれ。どうしたんだよ、今日…」
実は、結構酔っぱらってんのか?と、ミチが、水をともみの前に置いた。
「確かにちょっと…酔っぱらってるかもです」
ともみは酒に強い。だから酔ってはいなかった。けれど、思わずそう言っていた。超レアなミチの困り顔に、楽しくなってしまったのだ。
「恋人が今いるかいないか、だけでいいから教えてくださいよ」
「だけでいい、ってなんだよ」
「あっ。もしかして…まさかの独身じゃないとかあります?」
「独身だっつーの」
「そんなにバッサリいかれたら、会話が全然弾まないじゃないですか」
「弾ませたくないんだよ。ルビーじゃないんだから、恋愛話ではしゃぐのやめてくれよ」
え~教えてくださいよ~と、頬を膨らませむくれてみせたともみに、キャラじゃないことすんな、全く似合わねえから、とミチがバッサリと突っ込んだ。
◆
その後も、しつこくめげずに追求し…ミチから「今、恋人はいない」ということだけは聞きだすことができたが。
― 誰かを想い続けてはいそう……な気がする。
相思相愛ではなくても、ミチには想い人がいる。なんとなくそう感じ、ともみは自然と浮かんだ言葉を口にしていた。
「ミチさんに想われる人は、きっと幸せだろうな」
なんでだよ、とミチの眉間のシワが深くなったが、ともみは気にせず続けた。
「一度好きになったら、絶対相手を裏切ったりしなさそうだもん、ミチさんは。うん、絶対しない」
一度忠誠を誓った相手に付き従うという徹底っぷりは、光江に対する「忠犬ミチ」っぷりでも証明されているのだから…と、光江を思い浮かべた時、あれ?という疑問が湧いた。
「……まさか、かなりの年上好きだったりします?」
「は?」
「いや、ミチさんの最愛の女性といえば光江さんですから。その線もあり得るなと。ほら、男性は多かれ少なかれみんなマザコンだって言いますし、そういう意味では、ミチさんって究極のマザコン体質に見えなくもないというか、光江さんが女性としての理想形だとしたら…」
バカなの?という強めの重低音が、耐えられないとばかりにともみの言葉を遮った。
「そんなワケないだろ。いい加減にしてくれ。オレは年上好きでもマザコンでもない。だいたい、光江さんが実母の人生なんて、色んな意味で恐ろしすぎるだろうが」
「…ミチさんにバカって初めて言われたかも」
「つーか、マジで今日どうしたんだよ。ルビーと話してるみたいで本気で疲れるんだけど」
勘弁してくれよ、とため息をついたミチに、ともみは、なぜかうれしくなり、思わず。
「なんか今日は…ただ、ミチさんに会って話をしたくて…私、ここに来たのかも」
この記事へのコメント
凪の顔がどんなか気になるけれど、親権者の同意が必要な間は親に従って成人してから自分のお金で検討すればいいと思うけど。何言っても聞かなそう😂 あと愛さん元気そうで何より。
ルビーならこの小生意気なJKを手懐けた上でビシッと怒ってくれそうなのに。