『結婚なんて、まだそんなに真剣に考えたことないからね』
先週聞いた、蒼人の本音がまだ胸につかえている。
“同棲するなら、期限を決めてから。じゃないと、婚期を逃すよ”
どこかで聞いたようなセリフが、頭の中でずっとサイレンを鳴らしてるようだ。
◆
10月最後の週。
私は、汐留のレストランで、ダンス部時代の友達と春以来の定例ランチ会を開いていた。
本来はもう少し頻繁に集まっているのだが、この夏は子どもの熱などで欠席者が多く、流れてしまったのだ。
そんな久しぶりの集まりで、開始早々、みんなが私に問いかける。
「ねえ、前話してた年下の彼とはどうなったの?」
「菜穂の久しぶりの恋バナ、楽しみにしてきたんだよ!」
「進展した?というか、付き合ったりした?」
私は、サーモンがのったサラダをみんなに取り分けながら、小さな声で言う。
「結局、付き合ってるよ」
「ひゃー」という控えめな悲鳴が上がり、私は“事情聴取”を受けることになる。
彼から告白されて、5ヶ月付き合ってること。東京駅で告白され、同棲に至るまでの経緯などを話していたら、数十分が経ち、メインのお料理が来てしまった。
「もう終わり!みんなの話も聞かせてよ、久々の集まりなんだから」
すると友人の一人が「最後に一問!」と仰々しく手を挙げる。
「結婚する可能性は?もう、そういった話も出てるの?」
― まあ、聞かれるよね。
私は、アイスティーを一口飲んでから答える。
「…結婚したい気持ちはあるけれど、急ぐつもりはないかな。相手はじっくり決めたいし」
「そっか」と、みんなが口々に言う。その何か言いたそうな顔に私は少し悔しくなり、付け加える。
「私ね今の毎日が、本当に幸せなの。結婚とかいうかたちに囚われるのは、今どき古いって思ってる。彼は若いから、まだ心の準備ができてないだろうし」
スイーツまで堪能して、またね、と笑顔で解散した。
でも、私の心にはどんよりしたものが残った。
― 大事な友達には、本音で相談すればよかった。本当は、このままでいいのか迷ってるって。
つい強がってしまったのは、みんなに「かわいそう」とか「哀れ」とか思われるのが怖かったからだ。
蒼人との付き合いをどう進めるのがいいか、みんなの意見を聞けばよかった。
◆
腕時計を見ると、時刻は、17時過ぎだった。
私は一人、気分を晴らしたくて、ホテルのバーで飲んでから帰ることにした。
大好きなジンバックを頼むと、スピーディーに飲み干す。
「もう一杯、同じものを」
2杯目を注文したら、となりのカウンター席から「いい飲みっぷりですね」という温かみあふれる声がした。
この記事へのコメント
もう少しテンポよく話を進めて欲しい。第一、タイトルが先週とほぼ同じ(若干表現は違っても意味合いは酷似)ww ガン見してきた男は幼馴染みかなんか?
気強いな、この女。