お風呂あがりにソファでスマホを見ていたら、ダンス部時代の友人からウエディングフォトが送られてきた。
純白のドレスを着て微笑む、古くからの友人。
「結婚式は赤ちゃんが生まれてから行うつもりです!」との文章が添えてある。授かり婚で、ドレスのシルエットがふわりとしているのが、一層幸福感を引き立てている。
いつか子どもがほしいと願っている私にとって、友人は、夢を一気に2つ叶えた、とても羨ましい存在だ。
― ああ。やっぱり、妊娠を望むなら、時間を区切らないと、ダメよね。
同棲を始めるときに、結婚についてちゃんと話しておくべきだった。今からでも遅くないから、明日にでもちゃんと話そう。
そう決めたとき、自分と同じシャンプーの香りをまとった蒼人が、隣に座ってきた。
「菜穂ー、なに見てるの?」
「あのね、ダンス部時代の友達が、ウエディングフォトを撮ったんだって。これ」
蒼人は、私のスマホを覗き込み「いい写真だね」と言う。それから、画面を見つめたまま、私にこう問いかけた。
「菜穂もさ、こういうの早く撮りたい、とか思う?」
― え。めちゃくちゃ思う。だけど…そんなこと言ったら重いんじゃないの?
「…思うけれど、まあ、急ぐつもりはないの。結婚は、じっくり決めたいから」
「そっか」
蒼人は、一瞬きょとんとした顔をした。
「僕ね、友だちに年上の女性と付き合ってるって話したら、絶対にみんな言われるんだ。『それ、すぐに結婚を決めないとまずいやつじゃん』って。だからいつか菜穂にちゃんと聞きたいと思ってた。結婚、焦ったりしてるのかなって」
「あ、まあ…。焦るときもあるにはあるけれど…」
今さら本音を差し込むが、蒼人は、気の抜けた顔を見せる。
「よかった〜。結婚はじっくり決めたいって聞いて、安心したよ」
私はなんだかモヤモヤしてきたが、笑顔を作る。
「ちなみに…蒼人は、何歳くらいで結婚したいとかあるの?」
「うーん、特には。結婚なんて、まだそんなに真剣に考えたことないからね」
蒼人はソファを立ち、キッチンのほうへ行ってしまった。想定内の回答なのに、私の心は一気にしんどくなる。
ふと、昨晩、唐揚げを食べながら蒼人が言った言葉が耳の奥に蘇ってくる。
「僕は『なんとなくいいな』だけ選んじゃうからさあ」
― 真剣に考えたことない?そんなのって…無責任。
突然、尖ったワードが心に浮かんできて、私は驚く。
ふと目を逸らした先で、ダリアが華やかに咲いている。その景色が急に物悲しく見えてきて、私は静かに目を閉じた。
▶前回:「居心地が悪い…」結婚・出産ラッシュの友人を前に、恋愛相談をする30歳独女の気まずさ
▶1話目はこちら:「時短で働く女性が正直羨ましい…」独身バリキャリ女のモヤモヤ
▶NEXT:6月25日 水曜更新予定
若い男性と付き合う不都合。自分の本音に気づいた菜穂は、ある場所に出向き…?
この記事へのコメント
急にイライラしてきて悲しくなり別れを切り出す流れなら、まるで『男女の答え合わせ』
まるでリスか石破総理か?