◆これまでのあらすじ
大手IT企業のマーケティング部課長・桜庭菜穂。30歳になり、結婚が見えてもいない自分の人生に焦っていた菜穂だが、5歳下の人事部・澤石蒼人と交際を始め…。
▶前回:「居心地が悪い…」結婚・出産ラッシュの友人を前に、恋愛相談をする30歳独女の気まずさ
Vol.7 「早く結婚したい」なんて、言えない
伊勢丹新宿店を出ると、雨が降っていた。
― 雨か。しかもちょっと寒いな。もう10月だもんな。
ゲランの美容液。シャネルのルージュ。秋物のワンピースにショートブーツ。かさばる紙袋を左手にまとめてかけ、折りたたみ傘を開く。
5歳下で25歳の蒼人と付き合って、5ヶ月が経とうとしていた。
私からの呼び方は「澤石さん」から「蒼人」に変わり、蒼人も、私を下の名前で呼んでくれるようになった。
関係は絶好調。先週から、田町で同棲を始めたところだ。
『蒼人:買い物は終わった?僕はちょっと早めに帰宅できました。夜ご飯に、菜穂の大好きな唐揚げ作るよ』
LINEを開くと、蒼人からの温かいメッセージが届いている。
― 休日出勤で疲れているはずなのに、夕食を作ってくれるなんて。
蒼人の作るご飯は、調理に時間がかかるものの、味も見た目も私のより数段上だ。年上彼女として悔しいが、結構な頻度で料理を任せてしまっている。
私は申し訳ないと思うが、蒼人は決まってこう言う。
「菜穂の方が忙しいんだから、家では休んでて」
― 同棲して1週間、感動しっぱなしだ…。
私は、たくさんの外国人観光客とすれ違いながら新宿三丁目を歩く。今、雨なんかでは揺らがないくらいに幸せだった。
この記事へのコメント
急にイライラしてきて悲しくなり別れを切り出す流れなら、まるで『男女の答え合わせ』
まるでリスか石破総理か?