♂「SNSでお馴染みのポーズに、彼女も笑顔。面白いは正義と教えてくれる鮨店なのだ」
彼女に久しぶりに会うと、理知的な美しさを漂わせていた。
向こうでたまに会ったとき、僕は既婚者だったし、単に綺麗な人としか思っていなかったけれど、ふたりで会うと、美人の解像度が上がってくる。正直、気軽な気持ちで誘ったから不意打ちだった。
その胸の内が顔に出ないか心配だったが、店がよかった。『照寿司』本店譲りのエンタメ感でふたりを和ませたからだ。
鮨を見せるお決まりのポーズについては、「鏡を見ながらキメ顔の練習をしています!」。
裏話にまた盛り上がり、彼女もご機嫌。マグロのタルタルにキャビアとウニがのったつまみは清々しいほど港区的で、金曜の夜として申し分ない。
ふたりで向き合って近況報告をするのもありだけど、それは2軒目、または次回でもいいだろう。
45歳にもなると、よくも悪くもゆったりとかまえてしまう。余裕のふりして、この歳で焦って振られたくない予防線。いまになり、“両想い”に憧れているという青春返り。
ふたりでいるほうが孤独と感じる時期も長かったからだろうか。いまはひとりに慣れたが、週末の寝起きにふと寂しくなることがある。夜は眠りに落ちるだけだが、寝起きは現実の始まりだから。
♀「面白いだけじゃなくて、ちゃんと美味しい。デートとしても久しぶりのインパクト」
友達といるときのような楽な表情で私を見る彼。初めてふたりで会うけれど、デートと意識しすぎない雰囲気でよかった。
最近、神経を張り詰める仕事が多かったから、お店のパフォーマンスに笑顔になって元気も出た。
ある意味、お鮨デートはフィーリングが合うか言葉が少なくても測れる気がする。
「ここのシャリ好み」と彼が言うのを聞き、私も同じように思って、それは狭いストライクゾーンの一致だ。
横並びになり、互いに手で食事をするのも、合わなかったらぎこちなさを感じるはず。
潔癖な自分の反動か、既婚者の人が独身になると急に異性に見えるとも知る。指輪をした人とは特にお鮨デートは行けない。