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30歳になりまして Vol.2

「30歳でも、まだまだイケる?」マッチングアプリでの自分の市場価値に、女が安堵したワケ

― この人、34歳まで結婚していない理由が、何かあるのではないか。なにか爆弾を抱えていたらどうしよう?

勇斗さんが素敵である分、うれしさと同時に疑いが持ち上がってきている。

ふと、どこかで聞いた言葉が頭に浮かぶ。

「30半ばになると、離婚歴がある男のほうが安心」

ずっと「そんなものだろうか」と懐疑的だったが、今となってはなんだかわかる気がする。

私は、酔いに任せて、少し探ってみることにした。

「勇斗さんって、どのくらい恋人いないんですか。素敵だから、彼女いないのが意外で」

「ええ?うれしいなあ。去年の夏以来、いないんですよ。こう見えて、なかなか奥手で。菜穂さんは?」

「えっと…勇斗さん以上に一人が長いです。もう3年くらい」

― あ、正直に言い過ぎたかも。

私は「仕事が、忙しすぎて」と咄嗟に付け加える。勇斗さんは、感情の読み取れない笑顔で「わかります」と言った。


初の食事デートは、あっという間に終わってしまった。

勇斗さんが手配してくれたタクシーに乗ると、すぐにLINEが届いた。

『勇斗:今日はありがとうございました。また会いたいです』

私もお礼を言おうと文字を打っている途中で、追いLINEが来る。

『勇斗:次はランチから、1日デートしてみませんか。美味しい鉄板焼のお店があるので、お連れしたいです』

― 鉄板焼。

本気度が伝わってくる絶妙なセレクトに、頬がゆるむ。そして、心がとてもポカポカしてくるのを感じる。

この気持ちは、恋?渋谷駅を通過するタクシーの中で思うが、すぐに「違う」という結論に至った。

今の心情に名前をつけるなら、しっくりくるのは「安堵」だ。なんというか、まだ「私、30歳になったけどまだ大丈夫じゃん」という安堵。

まるでこの社会の恋愛市場からOKを出されたかのような、ほっと胸を撫で下ろすような気分。

タクシーは、スクランブル交差点に差し掛かる手前で赤信号で停車した。行き交う若いカップルを見つめながら、もっと自分を磨いてかわいいって思われたいと、私は久しぶりに思った。



1週間後の土曜日。

勇斗さんとの鉄板焼デートの前日に、私は、同じアプリで出会った別の男性とランチをしていた。

優しくて温厚そうな33歳男性、宏伸さん。エンジニア、趣味は旅行と鉄道、年収は勇斗さんと同じ「800〜1,000万円」。

「あ、あの僕、すごく緊張しています。こういうの、慣れなくて」

シルバーフレームのメガネに、白い肌。整った塩顔でインテリジェンスな雰囲気を漂わせている宏伸さんだが、口を開くと気弱そうに見える。

「い、行きましょう。…菜穂さん」

しかし、表参道駅で集合したはいいが、宏伸さんは特にお店を予約してはいなかった。宏伸さんが目星をつけていたお店に行ってみると、人気店ばかりで軒並み満席。

慌てる様子の宏伸さんを見て、私は、比較的いつも空いている青山方面のお店を提案した。

「ようやく入店できましたね。予約しておらず、本当にすみません」

「いえいえ。宏伸さん、何にしましょう?ここはピザが有名で、ビスマルクが特に美味しいんです」

「いいですね。ではビスマルクともう一枚頼んでシェアしますか?」

宏伸さんはようやく落ち着いたようで、「バランス的にもう一枚はトマトソース系がいいですかね」とメニューをのぞきこむ。

「あ、でも菜穂さん、白い服だ…」

「あ、いいですよ。トマトソース系も食べたいですし。気をつけていただきます」

「わかりました。あの…本当にすみませんでした。次は、しっかり予定を立ててお誘いさせてください」

― この人、結構モテそう。

いわゆるスマートな振る舞いができる男性ではないし、必要以上におどおどしている。でも、優しくて気遣いができそう。

20代半ばまでは図々しくも「減点」と思ってしまっていたような振る舞いも、少し可愛く思えるのは不思議なことだ。

― こういう人とじっくり関係を育めたら、平和な人生になりそう。


宏伸さんは、ピザ店のあとに寄ったカフェで、次のデートの日程を決めてくれた。

帰宅した私は、明日の鉄板焼デートに向けてゆっくりとお風呂につかり、ヘアトリートメントをした。

お風呂上がりに、クレ・ド・ポー ボーテのパックを顔に張り付けながら、口元がゆるむ。

― なーんだ、30歳楽しい。

私は、とびきりの美人というわけではない。ニコニコしていたら、たまに「可愛い」と言ってもらえるくらい。だから、写りのいい写真でマッチングしたところで、実際に会ったら難航する未来を覚悟していた。

でも、今2人の男性と手応えがある。

自分のどこがいいのだろう。なんとか維持しているスタイル?年収がもう少しで4桁に乗ること?

それとも、もっとまっすぐに、女性として「いいな」と思ってもらえている?

― わからないけど、何にせようれしい。ちょっと婚活に、本腰入れてみよう。

私は、ドライヤーのスイッチを入れる。



しかし、4日後の水曜日の夜。

私は、思わぬ展開に頭を抱えていた――。


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婚活に前向きになった菜穂。しかし思い通りの展開とはいかず…?

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この記事へのコメント

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No Name
勇斗がまさかの妻子持ち?で妻は時短勤務の同
期 安西ユカコ という偶然か.....
又は勇斗と宏伸が友達同士でデート中にばったり遭遇....
2025/05/14 05:349
No Name
もっと自分を磨いてかわいいって思われたいと、久しぶりに思った。

内面ではなく外見を磨くんだ?🤣
2025/05/14 05:157Comment Icon1
No Name
アホやん、この女。
2025/05/14 05:106Comment Icon1
もっと見る ( 7 件 )

30歳になりまして

「30歳」

その数字は、女性の心に妙に重くのしかかる。

「年齢なんてただの数字」と本人は思っていても、世間がそれを許してくれない。

職場では、つい最近まで若手だったはずなのに、いつのまにか中堅どころになっている。

マッチングアプリだって自動的に30歳になった途端に「いいね」が減った気がする。

気持ちは追いついていないのに、30歳という年齢の重みがが急にのしかかる。

大手IT企業のマーケティング部で、課長職を担う桜庭菜穂は、30歳になって迷いが生じ始めた…。

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