港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。
▶前回:「本気の恋は今までない…」恋愛上級者に見える28歳美女の知られざるプライベートとは
箱根の別荘
2時間半ほどのドライブの末、13時半頃に到着したその場所に、ともみは驚きながら降りた。
都心よりぐっと冷えた気温に慌ててコートを羽織り、ストールを耳まで上げて巻きなおす。気持ちよく澄んだ木々の香りが混じる空気に背筋が伸びながら、大輝の説明を聞く。
「少し日程が急だったから、おすすめのホテルとか旅館は予約で埋まっちゃってて。だったらうちの別荘の方がいいかなって。サプライズにするほど…行き先を隠すほどじゃなかったよね。なんか、ごめん」
「十分なサプライズだよ。でもいいの?」
「何が?」
「大輝くんのご実家のものなのに、私が泊まっていいのかなって」
何言ってるのと笑って大輝はともみの荷物を持つと、中に入ろうと促した。
そこは箱根にある友坂家の別荘だった。自分に譲られている唯一の別荘だと説明され、ともみは大輝が日本有数の名家の一人息子であることを久しぶりに思い出した。
細く曲がりくねった道を車で上り続け、ここから先は私有地だと知らせる鉄のゲート(まるで外国の城にありそうな)を通ったその先にあったこの別荘は、森の中にひっそりとたたずむという表現がまさにぴったりで。
木材と石材がバランスよく組み合わされた外観には温かみがあり、景観との調和を大切に建てられたことがよくわかる。
屋根は赤茶やオレンジの洋風瓦で覆われていて、玄関を入ってすぐの大きな窓のあるリビングルームには暖炉があった。3月に入ったけれどまだ寒いからと、管理をしてくれている人に薪の準備を頼んでくれていたらしい。
「ここ古いけど、こぢんまりしててなんか落ち着くんだよね」
2階の寝室にともみの荷物を運んでくれたらしい大輝が階段を下りながら言った。箱根の森を一望できる窓辺に吸い寄せられるように立ちつくしていたともみが、その声に振り返る。
ともみの感覚においての“こぢんまり”とは随分違う。10人は座れるであろうソファーや、畳2畳分はありそうなガラスのテーブルが置かれたリビングだけでも、おそらく20畳ほどはあるだろう。
「この後どうしよっか?今からならランチの時間に間に合うし街に出る?ここにも露天風呂はあるけど、温泉に行ってもいいよ?
オレも行く場所の目星はいくつかつけてるけど、バースデーガールのご希望を何でも叶えますよ」
大輝が恭しくふざける。
「あ、でも、夜だけはもうプランが決まってるんだ。でもここに19時までに帰ってくれば大丈夫だから」
こんな風に大切に丁寧に準備をしてくれているなんて思いもよらなかったから。とまどいと照れが勢いよく全身を駆け巡ってしまい、焦ったともみはポーカーフェイスを保つことに必死になった。
「…お腹すいた」
うれしいのに。ありがとうと言いたいのに。かわいげのない一言をなんとか吐くだけで精一杯だったともみを大輝は気にすることなく、オッケーじゃあまずランチね、と携帯を取り出し、どこかに連絡をし始めた。
この記事へのコメント
カレーな気分になったから今日の夕食メニューが決まった。