2025.04.02
運命なんて、今さら Vol.13日帰りキャンプは手軽なものだ。設営は、小さなテントと椅子を並べるだけで、20分もかからずに終わった。
先ほど寄ってきた精肉店の和牛と、スーパーマーケットで買ってきた瓶入りのノンアルコールビール、そして野菜などをテーブルに出していく。
「じゃあ結海さん、始めますか」
「ですね」
「僕、火を起こすので、お野菜の準備をお願いしてもいいですか?」
「もちろんです」
結海は立ち上がると、野菜の入ったボウルと、自分のまな板セットを抱えて、炊事場のほうへと歩いていった。
― 素敵だ…。
都内で会うときの結海は大人っぽいが、キャンプモードの結海は、等身大でのびのびしている。そのギャップに、寿人はグッとくる。
つい後ろ姿をじっと見てしまい、寿人は我に返って火バサミを動かした。
― 告白は、バーベキューが終わってから。コーヒーでも飲みながら、夕方頃にするんだ。
正午過ぎ、焚き火台に火がついて、炭の香りが立ち上った。
「野菜洗って切りました!まずは、ビール飲みませんか?」
結海の提案に、寿人はうなずく。
お酒を飲んでいいと言ったのに、結海は「私もノンアルコールにします」と譲らなかった。
日帰りキャンプは、飲めないのがさみしい。本当は一泊したいけれど、曖昧な関係のまま泊まるのはよくない気がして、寿人は今回は日帰りで誘った。
― 次は土日で来たいな。
願いを込めて、結海を見る。
きょとんとした顔の結海がこちらに視線を移し、3秒ほど目が合った。
― …きれいな人だなあ。
「ん?」
「あ、いや。乾杯しましょうか」
「そうしましょう」
声を揃えて乾杯する。
瓶を傾けると、冷たいノンアルコールビールがツーっと寿人の中に落ちてきた。
「じゃあ、まずは…さっそくお肉焼きますかね?」
結海は立ち上がって、クーラーボックスの中をうれしそうに覗き、和牛カルビを取り出す。パッケージに、精肉店の金色のシールが貼られている。
「そうだね、焼こう」
焚き火台を覗き込むと、結海と肩が触れ合った。
寿人は火の上に網を乗せ、温まったのを確認してから牛脂をすべらせる。自分の跳ねる心臓を落ち着かせるように、丁寧に。
「どうぞ、のせてください」
「はい。うわあ、美味しそうなお肉だ」
結海は感嘆の声をあげながら、程よくサシの入った和牛を4つ、網の上に並べた。
「…ねえ、寿人さん。懐かしいですね。初めて会ったあの夜」
チリチリと、肉が焼ける心地よい音が聞こえてくる。結海はトングを片手にそれを見ながら、寿人に話しかけた。
「もう4ヶ月も経つんですよ。この4ヶ月、いろいろあったけれど…寿人さんに何度も救われました」
「それは、よかった」
「私、実は、あのキャンプの日の帰り道、寿人さんにまた会えるような気がしたんです。それも、なぜかまた一緒にキャンプできるような気がして」
伏し目がちに話す結海の長いまつ毛が揺れている。
「だから今、まるで答え合わせをしているような気分です」
「それは…うれしいです」
照れながら、寿人は考える。
― あの日、結海さんと出会っていなかったら。
きっと自分は今日、どこかで一人でキャンプをしていただろう。それなりに快適で、そこそこ満たされていて、安穏な人生を送っていたはずだ。
対して今は、こんなにも心が揺れる。
結海を愛しく思ったり、苦しく感じたり、情けない自分に嫌気がさしたり。
それでも、結海と向き合っていたいと思う。どうしても。
運命。そんなもの信じてなかったけれど、もしそんな幸福を自分が受け取れるのなら、両手で大事に抱え込みたいと思うのだ。
4月らしい柔らかい光が、結海の頬でちらちらと揺れる。
「焼けたかしら?いや、まだかな」
お肉の世話をしてくれている結海が、トングを使って肉の様子を見る。
「…待って」
「あ、まだ触っちゃだめですか?」
結海が、あわててトングを肉から離す。
「ううん、そうじゃなくて。結海さん、改めて言わせてください」
「はい」
「僕の彼女になってくれませんか?」
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