運命なんて、今さら Vol.13

出会って4ヶ月、お泊まりしたいけど日帰りで遠出に誘う彼。32歳奥手男子の本音とは

日帰りキャンプは手軽なものだ。設営は、小さなテントと椅子を並べるだけで、20分もかからずに終わった。

先ほど寄ってきた精肉店の和牛と、スーパーマーケットで買ってきた瓶入りのノンアルコールビール、そして野菜などをテーブルに出していく。

「じゃあ結海さん、始めますか」

「ですね」

「僕、火を起こすので、お野菜の準備をお願いしてもいいですか?」

「もちろんです」

結海は立ち上がると、野菜の入ったボウルと、自分のまな板セットを抱えて、炊事場のほうへと歩いていった。

― 素敵だ…。

都内で会うときの結海は大人っぽいが、キャンプモードの結海は、等身大でのびのびしている。そのギャップに、寿人はグッとくる。

つい後ろ姿をじっと見てしまい、寿人は我に返って火バサミを動かした。

― 告白は、バーベキューが終わってから。コーヒーでも飲みながら、夕方頃にするんだ。

正午過ぎ、焚き火台に火がついて、炭の香りが立ち上った。


「野菜洗って切りました!まずは、ビール飲みませんか?」

結海の提案に、寿人はうなずく。

お酒を飲んでいいと言ったのに、結海は「私もノンアルコールにします」と譲らなかった。

日帰りキャンプは、飲めないのがさみしい。本当は一泊したいけれど、曖昧な関係のまま泊まるのはよくない気がして、寿人は今回は日帰りで誘った。

― 次は土日で来たいな。

願いを込めて、結海を見る。

きょとんとした顔の結海がこちらに視線を移し、3秒ほど目が合った。

― …きれいな人だなあ。

「ん?」

「あ、いや。乾杯しましょうか」

「そうしましょう」

声を揃えて乾杯する。

瓶を傾けると、冷たいノンアルコールビールがツーっと寿人の中に落ちてきた。

「じゃあ、まずは…さっそくお肉焼きますかね?」

結海は立ち上がって、クーラーボックスの中をうれしそうに覗き、和牛カルビを取り出す。パッケージに、精肉店の金色のシールが貼られている。

「そうだね、焼こう」

焚き火台を覗き込むと、結海と肩が触れ合った。

寿人は火の上に網を乗せ、温まったのを確認してから牛脂をすべらせる。自分の跳ねる心臓を落ち着かせるように、丁寧に。

「どうぞ、のせてください」

「はい。うわあ、美味しそうなお肉だ」

結海は感嘆の声をあげながら、程よくサシの入った和牛を4つ、網の上に並べた。


「…ねえ、寿人さん。懐かしいですね。初めて会ったあの夜

チリチリと、肉が焼ける心地よい音が聞こえてくる。結海はトングを片手にそれを見ながら、寿人に話しかけた。

「もう4ヶ月も経つんですよ。この4ヶ月、いろいろあったけれど…寿人さんに何度も救われました」

「それは、よかった」

「私、実は、あのキャンプの日の帰り道、寿人さんにまた会えるような気がしたんです。それも、なぜかまた一緒にキャンプできるような気がして」

伏し目がちに話す結海の長いまつ毛が揺れている。

「だから今、まるで答え合わせをしているような気分です」

「それは…うれしいです」

照れながら、寿人は考える。

― あの日、結海さんと出会っていなかったら。

きっと自分は今日、どこかで一人でキャンプをしていただろう。それなりに快適で、そこそこ満たされていて、安穏な人生を送っていたはずだ。

対して今は、こんなにも心が揺れる。

結海を愛しく思ったり、苦しく感じたり、情けない自分に嫌気がさしたり。

それでも、結海と向き合っていたいと思う。どうしても。

運命。そんなもの信じてなかったけれど、もしそんな幸福を自分が受け取れるのなら、両手で大事に抱え込みたいと思うのだ。

4月らしい柔らかい光が、結海の頬でちらちらと揺れる。

「焼けたかしら?いや、まだかな」

お肉の世話をしてくれている結海が、トングを使って肉の様子を見る。

「…待って」

「あ、まだ触っちゃだめですか?」

結海が、あわててトングを肉から離す。

「ううん、そうじゃなくて。結海さん、改めて言わせてください」

「はい」

「僕の彼女になってくれませんか?」

この記事へのコメント

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No Name
小説にするような内容でもない気が…。研哉は寿人の職場にまで来るヤバさだったのにブロックされたら簡単に引き下がったのか? いずれにしても結海の好感度が低過ぎてどうしても好きになれなかった。今日で終わりでよかったのになぁ。2年後の華が早稲田を卒業し大手飲料メーカーに入社今年で2年目とか白の振袖ではなく赤にしたとかどうでもいい。BBQの後お泊りしたんだよね?色々と雑な印象。
2025/04/02 05:2825返信6件
No Name
キャンプの日の帰り道寿人さんにまた会えるような気がしたんです
いやいや、また会いたいから実家パンと一緒にわざわざ現金を置いて行ったんでしょうが。
2025/04/02 05:3521返信1件
No Name
えーーーーーー? もしかして結婚後も延々と続く感じなのかな、どちらかが死ぬまでのストーリーで来年までダラダラ続く連載?🤦🏼‍♀️
2025/04/02 05:1620返信4件
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