運命なんて、今さら Vol.12

「友達以上、恋人未満の関係に終止符を打ちたい」32歳奥手男子が提案した渾身のデートプランとは

“アクション”。それは、彼女をキャンプに誘うことだ。

寿人は、空になったアイスコーヒーのグラスを流し台に置くと、結海とのLINEを開き、文字を打ち始めた。

『寿人:4月のどこかの週末、一緒に日帰りキャンプに行きませんか?』

キャンプで改めて告白をする。そう決めた。

行き先を検索したり、どんな言葉で告白しようか考えたりしていたら、4時過ぎまで眠れなかった。

「よし、送信」

結海は今頃、実家のパン屋さんで働いているはず。返事をもらえるのは夜になるだろうか。じれったいが、寿人は不思議と不安を感じない。

結海の思いを信じている。欲しい世界はもう、すぐ近くにある気がした。

《結海SIDE》


「結海。研哉くんとのこと、大変だったわね」

母親が、レジの周辺をアルコール消毒しながらぼそっと言う。

パン屋さんの客足は通常、午前中がピークで、14時を過ぎるとまばらになる。

母親は、客が誰もいなくなるタイミングを見計らって結海に声をかけてくれたようだ。

「ごめんなさいね、お母さん、何も知らなくて」

昨晩結海のスマホに母親から、経営のことでまた研哉を頼りたいという相談が入った。

それを見て、結海は研哉との破局を報告したばかりだった。

「研哉にまた助けてもらいたかったよね。…ごめんね、お母さん」

両親は、経営の腕がある研哉を神様のように崇めていた。結海は、別れたことが申し訳なくて、謝罪を重ねる。

すると母親は、困ったように笑った。

「結海が謝ることないのよ。別れて残念なんて思わない。だって結海は、別れたほうが幸せになれるんでしょう?」

「…うん。そう思って、私から言った」

「ならよかったのよ。詳しくはまた今度聞くね」

母親はレジを離れ、店内を見回るように歩きながら言う。

「結海には、本当に一緒にいたい人といてほしいし、一人がいいならそれでもいいし。全部結海次第で選んでほしいのよ、私たちのためなんて思わないで」

以前電話でマチコおばあちゃんに言われた言葉を思い出す。何をするか、誰と一緒にいるか。全部自分で決めていい、と。

「ありがとう」


― こんなふうに言ってもらえるなら、親に気を使わずに、もっと早く研哉と別れればよかったかな。

結海の顔に、穏やかな笑みが灯る。

しかし結海は、心の中に別の引っ掛かりが残っていることに気づいた。

― そうだ。お母さんに伝えたいことが…もうひとつある。

結海は、口を開く。

「ねえ、お母さん。もうひとついい?」

「なあに?」

「実は…。ここ半年くらい、仕事が結構しんどいの。私の要領が悪いのもあるんだけど、チームメンバーが辞めちゃってから人が入ってこなくて、上司に大量の仕事を振られてて」

母親が驚いた表情をしているのが、顔を見なくても結海にはわかる。

「残業続きなんだよね。それで…。ここで働くのは楽しいんだけど、毎週土日に来るのは正直結構しんどくて」

この記事へのコメント

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No Name
週末入れるバイトも探さずずっと娘に頼ってた親もどうなんだと思ってたけれど、母親の話を聞くと結海が「パン屋の仕事は息抜きになるからやりたい」と願い出てたからやらせてただだったんだ。結局一番悪いのは結海だった!!?
2025/03/26 05:1822
No Name
結海の成長日記 みたいになってきた🤦🏼‍♀️
2025/03/26 05:2322
No Name
あまりにも普通な展開で面白くない。キャンプに行って告白して付き合う事になり終了〜でいいと思うけど来週まだ最終話じゃないなんて、残念過ぎ。
2025/03/26 05:2218返信1件
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