BAR TOUGH COOKIES オープンの1ヶ月前
東京・目黒区 佐藤ともみ(27歳)の自宅
ぼんやりとした意識のまま、佐藤ともみはベッドサイドでなり続ける携帯のアラームを止めるために身を起こしたが、止めた瞬間、隣にいた男の腕の中に引き戻された。
「…今、何時…?」
眠そうにかすれた男の声に、あなたのためのアラームだから8時でしょ、と伝えると、スルリとその腕がともみの体から離れ、男はベッドを抜け出した。
男が服を身に着けていく度に、少し煙がかったように見える逆光の中で、その長い手足、そして程よく鍛えられた体の美しいシルエットが浮かびあがる。
ベッドの中のともみが自分を見つめていることに気がついた男が、ともみに近づき、その額に「おはよ」とキスを落とした。
― こういうとこ、ほんっとにたちが悪い。
苛立ちと…もはや慣れてしまった胸の痛みをやりすごしながら、ともみも「おはよ」と返す。
男の名は、友坂大輝(28歳)。185cmを超える長身に長い手足。各パーツが完璧な大きさとバランスでまとまった小さな顔。誰もが認める美しい男だ。
幼い頃から今に至るまで、歩けば必ず芸能事務所にスカウトされるというその美貌。なのに“出る側”には全く興味がなく、仕事はドラマや映画の脚本家。努力を重ねてコンテストで入賞し、夢を叶えたのだから、どこまでもイヤミな男だ…とともみは思っている。
「ともちゃんは今日、光江さんと新店舗の打ち合わせだよね?11時西麻布って言ってたっけ?」
すっかり身支度を済ませた大輝が、「もう少し寝てられるね」と言いながら再びともみに近づき、もう一度額にキスを落とそうとした。立ち去る時のキスは、大輝の習慣なのだが…。
その唇が額につく前に、ともみは大輝のシャツの襟元をグッとつかんで引き寄せ、彼の唇に噛みつくようなキスをしかけた。大輝が肩からかけていたバッグが落ちる音がして、その体がともみに覆いかぶさるように倒れこむ。
しばらくするとキスは緩やかになり、やがてその唇がどちらからともなく離れた。ベッドに横並びになった大輝が優しくともみを見つめ、その頬を撫でながら言った。
「…どした?…また寂しくなっちゃったの?」
この記事へのコメント
しかもゴットマザー光江さん出す新しいバーでのお話になるのかな? 次週が楽しみ。
読み応えのある連載が始まって嬉しいな〜、昨日の無駄に改行と読点が多い文章とは大違いw