1LDKの彼方 Vol.6

「え、嘘だろ…?」同棲前に彼女の親に挨拶に行ったら、実家が金持ち過ぎて…

渋谷の駅から明里に案内され足を踏み入れたのは、奥まった松濤の住宅街だ。

連なる何軒もの大豪邸たち。その中でもひときわ威圧感を放っているのが、明里の自宅だった。

城のようにそびえ立つ外壁。観音開きのオーク材ドアの横には、「森村」と明里の名字を冠した物々しい石造の表札が掲げられている。

「すげー…。これ、大使館とかじゃなくて一軒家だよね?」

「大袈裟だなぁ。古いだけだよ。昔祖父が建てた家を両親がもらっただけ」

冗談まじりに驚きを伝える俺に、明里は困ったような顔で答える。
聞けば明里のおじいさんは、俺でも知っているような有名な企業の創始者だったのだそうだ。

「明里って、お嬢様だったんだ…。俺、全然知らなかった」

「別に、私がお金持ちなわけじゃないからやめてよ。じゃ、行こっか」

門扉を開けて中に入ると、都内には珍しく芝生の庭が広がっていた。きっとこの庭を、ゴールデンレトリバーのソラくんが駆け回っていたのだろう。

そんなことを考えていると、玄関のドアが開く音と同時に、明里が声をあげるのが聞こえた。

「お父さん、お母さん」

明里の少し緊張した声色に、俺は思わず背筋を伸ばす。

厳格な、気難しいご両親へのご挨拶をしなければ…。

と、そう体を固くしたが、意外にもドアを開けてくれたご両親は、俺のイメージとは全く違う人たちだった。

「いらっしゃい!あなたが亮太郎さんね。明里、素敵なカレじゃないの〜!さあ、上がって上がって!」


― あれ、意外に気さくだな…?

歓迎されるがままにリビングに通され、お母さんご自身の手で淹れていただいた紅茶をいただく。

お母さんが俺に尋ねる。

「そう〜、明里とは今年からお付き合いしているのね。お勤めは広告代理店っておっしゃってたかしら?」

お父さんが俺に尋ねる。

「すごいねぇ。どんなCMを作ったりしているの?」

明里もいつもより若干口数は少ないものの、楽しそうに見えた。

― 別に、苦手に思うような部分はないように思えるけど。

和やかに当たり障りのない会話を続けていた、その時だった。再び玄関のドアが開く音と共に、少し甘ったるいような高い声が聞こえた。

「ただいまぁ」

そして間をおかずに、リビングに1人の女性が現れる。

「あっ、お姉ちゃんの彼氏!?こんにちわぁ」

それが、明里の妹である歌織ちゃんと俺が、初めて出会った瞬間だった。


「歌織…」

隣に座っている明里の声が、少しだけこわばるのを感じた。

しかし、それ以上に俺の印象に残ったのは、歌織ちゃんのその卓越したルックスだった。

身長は低め。折れそうな華奢な体つき。清楚な長い髪。

つんと上向きの小さな鼻。厚めのくちびる。少し離れ気味で、長いまつ毛に縁取られた色っぽい垂れ目──。

仕事柄、女優やタレントなどの芸能人を目にすることも多い。

けれど目の前に現れた歌織ちゃんは、そんな芸能人の一員だと言っても通用するような美貌の持ち主だった。

もちろん、明里だってすごく可愛い。瑛介の開いた飲み会でビビッときて、何度も拝み倒して付き合ってもらったくらいだ。

でも歌織ちゃんとはタイプが違う。身長はどちらかといえば高めだし、顔の作りはどちらかといえばあっさり目の美人だ。

俺は、明里の切れ長のクールな目元がとても魅力的だと思う。けれど、歌織ちゃんと似ているか?と聞かれたら、あまり似ていない姉妹だというほかなかった。

この記事へのコメント

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No Name
天真爛漫で頑張り屋に見せかけて腹黒そうだなぁ、妹。   亮太郎さんよかったら時々相談に乗ってもらえませんか? からの彼を奪おうとするかも…。続きが気になる。
2025/01/27 05:1936返信3件
No Name
恐らく姉妹を差別して育てたんだろうね。明里には厳しく歌織には甘くとか。もしかしたらそれが原因で明里はうつ病とかにまでなった過去があるのか.... お姉ちゃんと付き合うの大変じゃないですか?とか明里は難しい所があるけどとか、家族揃ってそんな事言わなくてもいいのに。
2025/01/27 05:4125返信1件
No Name
明里は前妻との娘で歌織は後妻(亮太郎が挨拶したお母さん)との娘なのかも? 浅く読んだだけだと明里のワガママに感じるけれど、もっととても深い訳ありな過去がありそうですね。
2025/01/27 05:4622返信1件
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