2024.12.23
1LDKの彼方 Vol.1◆
亮太郎と私が一緒に暮らし始めたのは、1年3ヶ月前。ちょうど、クリスマスの日のことだった。
亮太郎が一人暮らしをしている、渋谷と恵比寿の間に位置するマンション。
その目の前に単身用のコンパクトな引っ越しトラックが停まって、洋服や靴などが入った数箱のダンボールと、私のシングルベッドが運び込まれていく。
12月の明治通りには珍しくちらちらと雪が舞っていて、粉砂糖みたいな細かい雪の粒がシングルベッドに触れては消え、触れては消えていたことを覚えている。
寝室に運び込まれた私のベッドは、もとからある亮太郎のベッドと示し合わせたみたいに、ぴったりくっついてひとつのベッドみたいになった。
「イエーイ」と叫びながら、ワイドキングサイズに進化したベッドに亮太郎がダイブする。
ゴロリと仰向けに寝転んだ亮太郎は、少しすねた表情を浮かべて両手を大きく開き、甘えるように私を抱き寄せた。
「明里の部屋にあったほかの家具とか家電は、みんな処分しちゃったんでしょ?ベッドたったひとつだけ持ってくるくらいなら、身ひとつで来ても良かったのに」
「家具や家電はここにある亮太郎のでいいけど、シングルベッドで毎晩2人で寝るのはさすがに狭いもん」
少し可愛げのない言い方になってしまったのは、この状況がどうしようもなく嬉しくて、照れくさくて、くすぐったかったから。
「まあね。これからずっと一緒だし、寝心地は大事か」
亮太郎はそんな私の気恥ずかしさを見透かしたようにつぶやくと、しばらく私を見つめて、それから優しくキスをした。
― 幸せ…。これから亮太郎とずっと一緒なんだ。
亮太郎がいつもつけているオードトワレ、メゾン マルジェラのレプリカ・レイジーサンデー モーニングの香りを胸いっぱいに吸い込みながら、私は心からそう思った。
亮太郎とは、友人が開催してくれた食事会で出会って、そろそろ1年。
27歳と私より2歳も年下だけれど、そんなことは感じさせないくらい私のことを可愛がってくれて、甘えさせてくれて、喜ばせてくれる。
とにかく一緒にいて心地よくて、私は付き合い始めてからの週末はほとんど毎週、亮太郎が一人暮らしするこのマンションに泊まりに来ていた。
けれど、大手広告代理店でクリエイティブディレクターとして働いている亮太郎と、学生時代に友人と立ち上げた女性支援事業のベンチャー企業で働く私は、月曜日の朝からしっかりと仕事の予定が詰まっている。
もう少し一緒にいたいけど、もう帰らないと…。
そんな半べその日曜日の夜を幾夜も過ごしていたある日、ふと亮太郎が言ったのだ。
「じゃあさ、もう明里がここに引っ越してくればいいじゃん。一緒に住もうよ」
「え…同棲ってこと?本当に?いいの?」
いいの?と聞きながらも、私は内心、そこらじゅうを飛び跳ねてまわりたいくらい感激していた。
― やったぁ、ついに来たー!
私は29歳。今度の3月で、30歳になる。
適齢期ど真ん中という年代で、周りの友人はどんどん結婚や妊娠・出産と人生のコマを進めていく中、どうしたってジリジリとした焦りを感じずにはいられなかったのだ。
この年齢から同棲するということは、結婚まではそう遠くないということだろう。
私は家族との折り合いが悪いのもあって、2年ほど前から松濤の実家を出て一人暮らしをしている。
だが、今住んでいる目黒の権之助坂のマンションはファミリー向けの部屋が多く、在宅リモートワーク時に聞こえてくる子どもや赤ちゃんがいる家の音には、少なからず悩まされていた。
だから、更新のタイミングでちょうど引っ越しを考えていたところだったのだ。
渡りに船の状態で迎えた、同棲初日のクリスマス。私と亮太郎は、引っ越し業者のスタッフが引き払うなり、大きなベッドの上で何回もキスを交わした。
そうして亮太郎に溺れていく間に、これから先の未来には幸せだけが待っていると思い込んでしまった。
甘やかな期待がこのあとすぐに裏切られることになるなんて…この時の私は、考えもしなかった。
ようやく今後に期待でき...続きを見るそうな連載が始まって良かった!
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