2024.10.31
かわいく生きられない女たち Vol.5目の前には、田舎に住んでいたころに憧れていた「キラキラした東京の夜」が広がっていた。
「きれい…。こんな素敵なところがあるなんて知らなかった」
「地方の高校生が東京に出ようと勉強してる間に、俺たちは遊んでいたからね」
愛知県で生まれ育ち、「国立なら県外の学校に行かせてやる」と言われて、頑張って東京外語大に入った。言語文化学部の英語専攻。
― 在学中に留学して将来は海外で働くのもいいなって思ってた。
大学時代はバイトで奨学金を返して、留学資金をためていた…。
彼は私のほっぺを両手ではさんだ。強制的に見つめ合うことになる。
「まあ、外大に行くくらい勉強してたわけだしね。普通、英語にそんなに興味なんてわかないでしょ」
「英語を必死に学んだのは、コンプレックスがあったからよ」
私の言葉は、彼の興味を引かないらしい。出張にも通訳をつけていると聞いた。
それより彼の注意は、私のブラウスのボタンを外すことに向けられていた。
◆
あの夜に彼と体を重ねてから、1ヶ月が過ぎた。
毎日来ていた連絡は2日に一度になり、1週間に一度になっていった。
― また既読スルーかぁ…。
土曜の夕暮れ、私はひとり暮らしをしている部屋で悲しみの海に沈んでいた。ベッドに寝転がって、ひたすら天井を見つめる。大声で泣こうとしたけど、できなかった。
私は物心ついてから、泣いたことが一度もなかった。
中学生の頃に母親が亡くなった時も、泣かなかった。
大学生の頃に父親の借金が発覚して、アルバイトで貯めていた留学資金を返済に充てた時も、泣かなかった。本当は1年行くはずだった留学は、1ヶ月になった。
― でも、本当にそれでよかったの?「悲しいよ」「嫌だよ」って言うべきだった?
蓮に「会いたいよ」と送るべきか…。スマホを手に取ると、インターホンの音が響く。
「くるみ、いる?」
その声は、大学時代のクラスメイトの芽衣だ。大学の同級生とのつながりは深く、こうして社会に出てからも近所に住んだりしている。
私がドアを開けると、彼女は驚いた顔をした。
「借りてた本を返しに来たんだけど…。くるみ、大丈夫?顔、死んでるよ」
「卒業してから、元気があったことなんてない。外大って平和だったわ…。少しあがってく?」
キッチンでお茶を入れる私の横に来て彼女は言った。
「くるみ、どうしたの。最近できた広告代理店の彼氏?」
「そうなんだけど。結局私のコンプレックスが原因なんだよね。
私はひとり親育ちでそこまで裕福じゃなかったし。外大に行ったのは、海外で働きたいって思っていたからだけど、大企業とはいえ、そんなに給与が高くない会社で働いている」
「で、東京育ちの広告代理店くんでコンプックスを埋めているってわけね」
「図星…」
その時、スマホが通知音を立てた。
蓮からで、デートをドタキャンするという連絡だった…。
いつのまにか、横にいる芽衣も画面をのぞきこんでいる。
「は?くるみ、何これ?」
「はは…。デートもなくなったし。芽衣、今夜時間あったら映画でも観に行かない?」
「映画じゃなくて、他に見るものがあるでしょ。現実を見な。他に女がいるんじゃない?」
芽衣は私にぐっと顔を近づけて、続ける。
「前から話を聞いて、怪しいと思ってたんだよ。GPSのアプリ、あるの知ってる?相手のスマホにインストールすれば、位置情報を共有してもらえるやつ」
「知ってるわよ。前にデートした時、こっそり彼のスマホにいれたから」
「じゃあ、なんで見ないの」
「見ると、認めることになりそうで、怖くて…って、ちょっと!」
芽衣は私の手から、スマホをひったくった。取り返そうと手を伸ばすが、彼女はベッドにうつぶせになり、スマホを操作している。
「芽衣、返して!」
「だめ。とにかく、彼が今どこにいるか見なきゃ」
彼女は体の向きを変えて、慣れた手つきで、その位置情報アプリを起動した。
― 付き合って日も浅いし、浮気されてないはず。でも、家にはいない気がする…。
しかし、GPSが指す場所を見て、私は目を疑った。
「え、うそ。ここって…」
▶前回:「すっごく楽しい…」初デートで29歳女が、2軒目で連れて行かれた意外な場所とは
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▶Next:11月7日 木曜更新予定
次回は外大女子ってハードモード「海外にかぶれる外大女子より、京都美人の方が男は好き。ならこっちは……」
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