2024.10.24
かわいく生きられない女たち Vol.4
窓際の席からは無数の光の粒が、ガラス越しにきらめいて見えた。
― よりによって、どうして日向なのよ…。
窓に映る私は、うんざりしたように口を尖らせていた。彼は目を輝かせてメニューを見ている。
「ねえ、この店は水瀬次長に教えてもらったの?」
水瀬次長から送られてきたLINEを見ながら、私は彼に聞いた。
どうやら、水瀬次長の実家が新百合ヶ丘のデパートに呉服店を出店しようとしたらしい。その時に区役所で相談に乗ってくれたのが、日向だったのだとか。
日向の仕事ぶりを褒める文章を眺めていると、目の前にいる本人は言った。
「いや、友だちに聞いたんだ。大事なデートがあるから教えてくれって」
「…そう。てっきり次長に教えてもらったんだと思ったわ。ここ、本部のみんなでよく来るから」
「水瀬さんに『いい店知りませんか?』って聞いたら『自分で何とかしや。それも練習やで』って言われたんだよ。結局は人に頼ってるけどな」
日向は屈託なく話す。全く似ていない水瀬次長のモノマネに、思わず吹き出してしまう。
彼は、店員さんと話しながらテキパキと注文を済ます。
「友だちにはいくつか教えてもらったんだけどさ、有賀はここが好きかなって思ったんだ」
「どうして?」
「昔、隣の席だったとき、お道具箱の中に石を集めてただろ。絵の具で塗ってさ」
「き、気づいてたの?」
「サッカーの試合前に、1個くれたじゃん。お守りにって」
「結果はボロ負けだったけどな」と彼は笑った。歯並びが見事だった。
「あの時に、キレイなものが好きなんだなって思ったんだ」
「そんなこと、親にも気づいてもらったことなかったわ…」
親の関心は「優秀な娘」である私。それは6歳で塾に行き始めてから始まり、中学受験、大学受験、就職活動まで続いた。
私の就職と同時に、親は葉山に引っ越した。親元から早く離れたかった私は、女子寮に入る。
本当は、家から通勤時間が1時間半以上でないと、銀行の寮には入れないのだが、少しだけ経路をごまかした。
やっと親の目から解放されたと思ったのに、今度は上司の期待に応える日々が始まった。周囲から役員候補として期待されている、東大院卒の女子行員の私。
― 日向ってぼーっとしてそうで、私のそんなところ見てくれてたんだ。やばい、ちょっと泣きそう…。
うるんだ目で窓の外を見つめると、東京の街がいっそうキラキラと輝いて見えた。
「おーい、バットモード入った?勝手に分析しすぎ、頭良すぎ!」
日向といると、素の自分でいられる気がする。
私は少しずつこの夜を楽しみ始めていた。しかし、夜はキレイなままで終わらない。
甘くておいしいカクテルは危険だ、ジュースのように飲めてしまう。お酒が弱いのに、ついつい飲みすぎてしまった。
「いい娘のあとは、いい銀行員でいなきゃいけないし…。私は一体、誰の人生を生きているのか時々わからなくなるのよね…」
日向は同調も同情もせず、ただ聞き流してくれる。その無関心さが心地いい。受け止めてくれる彼に甘えて、私は続けた。
「ていうか日向、小5の時はクラスのマドンナと付き合ってたじゃない!どうして今になって私とデートなんてするのよ!」
忘れもしない小5の秋、私はテストで90点をとってしまった。100点じゃないから親に怒られるのが怖くて、なかなか放課後の教室から出られなかった。
教室からは運動場が見えて、日向がクラスのマドンナと楽しそうに帰るところが見えた。
彼女はとてもかわいくて、愛嬌があるタイプで私とは正反対のタイプ。
教室で日向の背中を見つめていた私は、ふたりの様子をみて恋心を封印した。
それなのに…。
「え?俺、彼女とは付き合ってないけど」
私は驚いて顔を上げる。小学校の教室から現実に引き戻された。
「よく一緒に帰っているところ目撃したよ。付き合ってるって噂もあったし…」
「家が近かっただけ。噂は噂だろ。さ、もう店出ようぜ」
一気に酔いが冷める。2軒目は?とは聞けなかった。
これまで付き合った人はひとりだけだし、デートも最近はしていない。だから、こういうとき、どう振る舞うべきかわからない。
お会計を済ませて店を出ると、彼は「あ、そうだ」と声を上げた。
「いい場所があるんだ。まだ時間、大丈夫か?」
私がうなずくと、彼はいたずらっぽく笑った。
案内されるがまま歩くと、あるビルにたどり着いた。
で、いきなりお道具箱の話聞いたら泣きそうになった美月。に対し「勝手に分析し過ぎ、頭良過ぎ!」 はぁぁ? 感情移入もなにも出来ないけど。で「バ...続きを見るカヤロー」は何?北野武監督が好きなの?それとも平成の…寒気がするトレンディドラマの真似? スッキリするぜ〜?いや読者は皆はイライラするぜ〜。酷過ぎるぜ〜。 無理にネジ込んだ歯並びが見事とか足の裏が真っ黒は、下手なメタファー?
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