かわいく生きられない女たち Vol.4

「すっごく楽しい…」丸の内で初デート。29歳女が、2軒目で連れて行かれた意外な場所とは


窓際の席からは無数の光の粒が、ガラス越しにきらめいて見えた。

― よりによって、どうして日向なのよ…。

窓に映る私は、うんざりしたように口を尖らせていた。彼は目を輝かせてメニューを見ている。

「ねえ、この店は水瀬次長に教えてもらったの?」

水瀬次長から送られてきたLINEを見ながら、私は彼に聞いた。

どうやら、水瀬次長の実家が新百合ヶ丘のデパートに呉服店を出店しようとしたらしい。その時に区役所で相談に乗ってくれたのが、日向だったのだとか。

日向の仕事ぶりを褒める文章を眺めていると、目の前にいる本人は言った。

「いや、友だちに聞いたんだ。大事なデートがあるから教えてくれって」

「…そう。てっきり次長に教えてもらったんだと思ったわ。ここ、本部のみんなでよく来るから」

「水瀬さんに『いい店知りませんか?』って聞いたら『自分で何とかしや。それも練習やで』って言われたんだよ。結局は人に頼ってるけどな」

日向は屈託なく話す。全く似ていない水瀬次長のモノマネに、思わず吹き出してしまう。

彼は、店員さんと話しながらテキパキと注文を済ます。

「友だちにはいくつか教えてもらったんだけどさ、有賀はここが好きかなって思ったんだ」

「どうして?」

「昔、隣の席だったとき、お道具箱の中に石を集めてただろ。絵の具で塗ってさ」

「き、気づいてたの?」

「サッカーの試合前に、1個くれたじゃん。お守りにって」

「結果はボロ負けだったけどな」と彼は笑った。歯並びが見事だった。

「あの時に、キレイなものが好きなんだなって思ったんだ」

「そんなこと、親にも気づいてもらったことなかったわ…」

親の関心は「優秀な娘」である私。それは6歳で塾に行き始めてから始まり、中学受験、大学受験、就職活動まで続いた。

私の就職と同時に、親は葉山に引っ越した。親元から早く離れたかった私は、女子寮に入る。

本当は、家から通勤時間が1時間半以上でないと、銀行の寮には入れないのだが、少しだけ経路をごまかした。

やっと親の目から解放されたと思ったのに、今度は上司の期待に応える日々が始まった。周囲から役員候補として期待されている、東大院卒の女子行員の私。

― 日向ってぼーっとしてそうで、私のそんなところ見てくれてたんだ。やばい、ちょっと泣きそう…。

うるんだ目で窓の外を見つめると、東京の街がいっそうキラキラと輝いて見えた。

「おーい、バットモード入った?勝手に分析しすぎ、頭良すぎ!」

日向といると、素の自分でいられる気がする。

私は少しずつこの夜を楽しみ始めていた。しかし、夜はキレイなままで終わらない。


甘くておいしいカクテルは危険だ、ジュースのように飲めてしまう。お酒が弱いのに、ついつい飲みすぎてしまった。

「いい娘のあとは、いい銀行員でいなきゃいけないし…。私は一体、誰の人生を生きているのか時々わからなくなるのよね…」

日向は同調も同情もせず、ただ聞き流してくれる。その無関心さが心地いい。受け止めてくれる彼に甘えて、私は続けた。

「ていうか日向、小5の時はクラスのマドンナと付き合ってたじゃない!どうして今になって私とデートなんてするのよ!」

忘れもしない小5の秋、私はテストで90点をとってしまった。100点じゃないから親に怒られるのが怖くて、なかなか放課後の教室から出られなかった。

教室からは運動場が見えて、日向がクラスのマドンナと楽しそうに帰るところが見えた。

彼女はとてもかわいくて、愛嬌があるタイプで私とは正反対のタイプ。

教室で日向の背中を見つめていた私は、ふたりの様子をみて恋心を封印した。

それなのに…。

「え?俺、彼女とは付き合ってないけど」

私は驚いて顔を上げる。小学校の教室から現実に引き戻された。

「よく一緒に帰っているところ目撃したよ。付き合ってるって噂もあったし…」

「家が近かっただけ。噂は噂だろ。さ、もう店出ようぜ」

一気に酔いが冷める。2軒目は?とは聞けなかった。

これまで付き合った人はひとりだけだし、デートも最近はしていない。だから、こういうとき、どう振る舞うべきかわからない。

お会計を済ませて店を出ると、彼は「あ、そうだ」と声を上げた。

「いい場所があるんだ。まだ時間、大丈夫か?」

私がうなずくと、彼はいたずらっぽく笑った。

案内されるがまま歩くと、あるビルにたどり着いた。

この記事へのコメント

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No Name
ちゃんと読んだのに、意味がよく分からない箇所が多々.... 日向は「これから人と会う」と最初に言ったから、紹介された相手がまさか美月とは思ってなかったはず。なのに、Rigolettoを選んだのは友達に教えてもらって有賀はここが一番好きかなと思って?
で、いきなりお道具箱の話聞いたら泣きそうになった美月。に対し「勝手に分析し過ぎ、頭良過ぎ!」 はぁぁ? 感情移入もなにも出来ないけど。で「バ
カヤロー」は何?北野武監督が好きなの?それとも平成の…寒気がするトレンディドラマの真似? スッキリするぜ〜?いや読者は皆はイライラするぜ〜。酷過ぎるぜ〜。 無理にネジ込んだ歯並びが見事とか足の裏が真っ黒は、下手なメタファー?
2024/10/24 05:3918返信1件
No Name
小学校の卒業式以来お互い会ってなかったのに、17年ぶりですぐ相手を認識出来るなんてすごいけど、リアリティゼロ。
2024/10/24 05:4216
何だ????
この内容のない話は?
2024/10/24 05:2113返信1件
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