マティーニのほかにも Vol.10

結婚わずか3ヶ月で別居した35歳会計士。「妻とはもう無理」と思った理由とは

東京に点在する、いくつものバー。

そこはお酒を楽しむ場にとどまらず、都会で目まぐるしい日々をすごす人々にとっての、止まり木のような場所だ。

どんなバーにも共通しているのは、そこには人々のドラマがあるということ。

カクテルの数ほどある喜怒哀楽のドラマを、グラスに満たしてお届けします──。

▶前回:23時の恵比寿でナンパされ、バーに行った28歳女。しかし30分後、後悔したワケ


Vol.11 <ウイスキーいろいろな飲み方> 桂龍一(39)の場合


18時前頃。クライアントの会社で監査業務を終える。

21時頃。虎ノ門の事務所に持ち帰ったいくつかの仕事を切り上げる。

21時半頃。日比谷線に乗り、恵比寿の単身者用マンションに帰宅する。

23時頃。簡単な夕食を取り、風呂に入って、ジャパニーズウイスキーをロックで飲んで、横になる──。

判で押したように変わらない毎日。単調なルーティンをひたすら繰り返すだけが、龍一の日々だ。

いや、この2週間に限って言えば、龍一にはもう一つだけルーティンがある。

それは、会社帰りの日比谷線の中でLINEのトーク画面を開き、送ったメッセージに「既読」の文字がついていないのを確認することだった。

今夜も疲れ切った体を電車の揺れに任せながら、吊り革につかまっていない左手でスマホを操作し、深いため息をつく。

『もう一度、ちゃんと話したい』

2週間前に仁美宛てに送ったメッセージは、未だに既読にならないままだ。きっと最後にバーで会ったあの夜に、問答無用でブロックされてしまったのだろう。

― これが、因果応報…ってやつなのかな。

仁美が返事してくれないことを、自分がどうこうできるとは思わない。

なぜなら龍一自身、妻の沙耶香からのLINEを、もう長いことスルーしている立場なのだから。

緑色の吹き出しが並ぶ仁美とのトークルームに対し、沙耶香とのトークルームは、ほとんどが沙耶香から送られてきた吹き出しで埋め尽くされている。

『龍一さん、見て!美味しそうにグラタンが作れたよ♡』

『ネイル変えたの、かわいいかな?』

『おはよう〜!今日も1日がんばってね』──。

どのメッセージをとっても他愛もない話題であることが、龍一にとっては恐ろしくさえ感じる。

― なんで、こんな…。

がっくりとうなだれたのと同時に、車内アナウンスが恵比寿に到着したことを告げる。

うねるような人波に乗って改札に流されながら龍一は、沙耶香と、そして仁美に、思いを巡らせるのだった。

この記事へのコメント

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No Name
ずっとスルーされてるのに構わず私通信送ってくるうざい人苦手だな。お前のネイルなんて心底どうでもいいわ。巨大手作りケーキも怨念こもってそうで怖い。ストーリーとしては「もう一度向き合ってみよう」と思えた事が正解かもだけど、現実的にはもう不可能だろうなと思ってしまった。猛烈なアプローチが有ったにしてもアク強い女と結婚しちゃダメ。
2024/09/11 05:3129
No Name
やっぱりもう沙耶香とは無理なんじゃないのかなぁ。気性が荒くて感情の起伏が激しい人とはなかなか再構築は難しいと思う。言ってしまえばモラハラ妻だよね。
龍一もそんなに仁美が好きだったなら結婚指輪外して会うとか再会した時に離婚する事を伝えていたら違ってたかもしれないのに....
2024/09/11 05:1928
No Name
負け犬のようにバーへ。
もう1杯ロック飲んだら、勇気出して離婚話しに行け。
とにかくまず独り身になってから仁美に連絡!
それが出来ないなら一生負け犬人生だよ。キャイーン!
2024/09/11 09:0012
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