未来のWISH LIST Vol.6

デートで80万円使う43歳・経営者の男。タクシーで行ったお店で、25歳女性は大変貌を遂げ…



日曜日の15時。

未来は、ボスキャリで最後の学生との話を終え、大きく息をついた。

― やり切った。

自分にできることはすべてやった。

拓人を含めた何人かの学生とは、すでに本社とのリモート面接も済ませ、内々定を出している。

― 内々定者の中では、やっぱり小林くんが一番優秀だったな。ぜひうちに来て欲しい。

早く笹崎に会って、拓人の感触を聞きたい。未来は急いで待ち合わせ場所のプルデンシャル・センターに向かった。

「長田さん!時間作ってくれてありがとう」

待ち合わせのブルーボトルコーヒーに到着した未来を、笹崎は迎え入れる。

「こちらこそ、ありがとうございます。ええっと、笹崎さん…」

未来がもらった名刺の通り呼びかけると、笹崎は笑った。

「拓人と名字が違うの、気になりました?僕は学生の頃に拓人を授かって結婚したんですけどね、数年で離婚しちゃいました」

「それは、なんというか…」

未来は答えに困ってしまう。


「当時、学生起業したばかりだった僕は、自分のことしか考えてなかった。事業が正念場だったし、あの時は元妻に対して『お金は渡すから、家庭はそっちでなんとかしてくれ』って思ってたんです」

「起業したばかりなら、それも仕方のないことのような気もしますけど…」

結婚も出産もしたことのない未来には、『仕事に邁進する夫を応援しない妻』のイメージがわかない。

「長田さんは優しいですね。そうだ、せっかくだから上に昇りませんか?ここは50階に展望台があるんですよ」

笹崎は、笑って戸惑う未来をいざなった。

「わあ、すごい!」

専用のエレベーターで50階に上がると、1フロア全体を使った広い展望エリアが広がっていた。

ボストンのランドマークを見下ろしながら、笹崎ととりとめのない話をする。

20歳で授かり婚をした笹崎は、現在43歳だということ。飲食事業を売却し、今は新事業の立ち上げに集中しているところだということ。

未来も、キャリアのこと、恋人の悠斗のことをぽつりぽつりと話した。

笹崎の話題は、会社勤めの未来にとっては新鮮なものばかりだ。

それなのに、笹崎が時折見せる少年っぽい笑顔を見ると、不思議と長年の友達と話しているような気になってくる。

暗くなりはじめた外を見ながら、笹崎が言った。


「あれ、もうこんな時間だ。なんか長田さんとの時間は、古い友達との時間みたいです」

「私も同じことを考えていました」

「嬉しいな…僕は、まだ話し足りない気分なんだけど、長田さん、このあと一緒に夕食でもいかがですか?」

「えっ」

2人で食事となると、事の重みが違う気がする。

― 悠斗、なんていうかな。

未来が躊躇していると、笹崎が言った。

「あ、男と2人で食事するのは気が引ける?今、日本は早朝だよね?彼氏さんに電話して聞いてみたら?」

「そ、そうですね」

― 悠斗が止めてくれたら、食事には行かない。

笹崎と離れ、悠斗の携帯を鳴らす。

― 5秒、6秒…。

呼び出し音はなるが、応答はない。未来は電話を切ると、笹崎の元に戻った。

「食事、行きます」

「よかった!嬉しいなあ。今ちょうど、宿泊先のラッフルズのレストランが取れたんです。行きましょう」

笹崎がまた、少年っぽい笑顔を見せる。

「はい、ぜひ!」

その笑顔を見ると、未来は自分の選択が正しかったと感じた。

この記事へのコメント

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No Name
マズイんじゃないの?🤣 内々定出した学生の父親と、コーヒーのつもりが展望台から相手の宿泊してるホテルで食事してバーで飲み直すとか。 高価なプレゼントもらったし逃げられないと思う!
2024/07/01 05:1954返信3件
No Name
何もかもがありえない。
2024/07/01 06:3242
No Name
本当に未来って鈍臭いし子供だし仕事の出張なのに軽率だし、全く応援出来ないキャラ。 靴もジャケットもダサ過ぎてホテル内のレストランに連れて行けないから買ってやったんかな。 この事悠人に言ったら絶対怒るわな。
2024/07/01 05:2740返信2件
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