
スシ イシジマ
鮨 石島
どんなに東京に新しい鮨屋が増えたって、初めて戸を開ける瞬間の緊張感は薄れやしない。だが、それが持続し続けるのは、どうか。そんなに鮨はえらい食べ物か?
銀座1丁目、昭和通りの奥。4丁目交差点の喧噪とは打って変わった、のんびりとした、街で暮らす人の香りがする場所で、石島吉起氏はこの7月、『鮨 石島』を開いた。18歳で『寿司清』に入り、約15年。築地本店、NY店、六本木ヒルズ店で腕を磨いた。
同期は45名ほど、その半数が1年で消えた。1人前になったのはわずか数名。大手鮨店を揶揄する食べ手もいるが、そんな暢気な世界ではない。石島氏が目指すのは、「月2回、来たくなる店」。毎朝、河岸へ出向き、丹念に魚を見て、旬の良い物を安く手に入れる。聞くはたやすく、実行は難い。「負けたくないから」と、仕入れに向かう先輩の後をついて歩いて、目を養った、その成果がカウンターの上に並ぶ。
養殖は使わない、手仕事を厭わない、コース仕立てにはしない。つけ場を手元がはっきりと見える設計にしたのは、自分に緊張感を、お客に安心感を与えるため。一見すると当人は飄々として、努力の轍など微塵も見せやしない。だが手練れとはまた違う。お客と共に育つ伸びしろ。この店の味わいは、我々と共に作られる。