2024.05.25
アオハルなんて甘すぎる Vol.17どういうことですか?と聞いた私に、雄大さんは照れたように、少しだけ目線を泳がせた。そして。
「友情というものがもしこの世にあるとしたらさ。今日から改めて、それをはじめたいなって。…もちろん、宝ちゃんの同意があればだけど。どうかな?」
乾杯をするようにグラスを掲げたその顔は少し怒っているようにも見えて、雄大さんは、照れが加速するとこんな表情になるのだと新発見をした気持ちになった。
どうやら私は、つい最近まで雄大さんに信用されてはいなかった…らしい。それはショックだけれど。
― 今はもう信用してくれた…友人として認められたってことでいいのかな?
なんだかくすぐったい気持ちになり、こちらこそよろしくお願いします、とグラスを少し持ち上げると、雄大さんがカツンと合わせてくれて、乾杯の形になった。
「…じゃあ宝ちゃんへ改めて。ようこそ、西麻布へ」
「今!?今ですか!?」
反射的に突っ込みを入れた私を、オレ的には今なんだよ、と雄大さんが笑った。
◆
うれしいけれどむずがゆい…友情の儀式を終えた私は、もう一つ雄大さんに話すべきことがあったと思いだした。伊東さんからのお誘いの話だ。
年明けにデートに行こうと誘われていることを伝えると、雄大さんはあっさりと、知ってるよと言い、私が聞き返すよりも早く続けた。
「伊東くんはその辺ちゃんとした人だから」
どうやら伊東さんは私に最初のLINEをする前に、私に連絡をとってもいいかの確認を雄大さんにしてくれていたらしい。
「…で?いくのいかないの?」
その質問に、行きたいとは思っているものの、デートと言われて緊張していることや、2人きりの会話が成り立つか心配なので、なんと返事すればいいのか迷っている…。と素直に答えてみると、雄大さんは、ふーん、と携帯を取り出し何かを打ち込み始めた。
そして。
「はい、これで完了」
見せられたのは、雄大さんの携帯。LIINE画面で…トークの相手は伊東さんだった。
≪今、宝ちゃんと一緒にいて、宝ちゃん、伊東さんとの食事には是非行きたいそうです。2人きりになると緊張してしまうかもと言っていますが、楽しみにはしているようなので、伊東さんの日時が決まったら、連絡してあげてください≫
「…ちょ、ちょっと!なに!?」
私が焦って画面を見つめている間に、メッセージに既読がついた。そして≪了解です、ご連絡ありがとうございます😊≫という返信が早速…伊東さんから。
「雄大さん、なんで勝手に…!」
「元々行くって返事するつもりだったんでしょ」
「そうですけど…!!」
「…あーなんか、オレ、宝ちゃんをからかう楽しみに目覚めたかも」
ニヤニヤと笑う雄大さんに、文句の言葉を失っていると、声がした。
「あら、まだいたの。雄大はとっくに逃げて帰ったのかと思ったよ」
光江さんだった。その登場に1時間がたったのだと知る。逃げるわけないじゃないですかと答えた雄大さんの言葉に、あれ大輝は?と聞く愛さんの声がかぶさる。その声が明るく、表情も晴れ晴れとしているのは“女帝のカウンセリング”の効果なのだろうか。
光江さんはすぐに店を出るつもりなのだろう。真っ白なウールコートを店長に着せてもらっている。その白さがまぶしくて見つめていると、光江さんと目が合った。
「お嬢ちゃんは、この店の名前を知っている?」
「はい、もちろんです」
「言ってみて」
「Sneet(スニート)です」
「どういう意味かわかる?…あ、愛も雄大も答えんじゃないよ」
愛さんが頷き、雄大さんは無言のまま。意味…スニート、なんだろう。英語ではなさそうだし、別の国の言葉?それとも造語?としばらく悩んでいると、光江さんが、ああもう出なきゃいけないから時間切れだ。と言って続けた。
「Sneet、アルファベット、逆に読んでみて」
カウンターに置いてあった、スニートの文字の入ったコースター。それを私に手渡した“西麻布の女王”は、真っ白なロングコートをなびかせて、じゃあまたね、と去っていった。
言われた通り、コースターの文字、そのアルファベットを逆から読んでみる。
Sneetだから…teenS
「…あ!ティーンズ…!」
思わず声に出してしまった私に、店長がにっこりとほほ笑んだ。
「ティーンズ。つまり青春真っ最中の若者のたち。アオハルってやつですね」
▶前回:「デートの正しい作法がわからない…」西麻布の1Kの自宅で、28歳女が親友にすがりついた理由
▶1話目はこちら:27歳の総合職女子。武蔵小金井から、港区西麻布に引っ越した理由とは…
次回は、6月1日 土曜更新予定!
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