離婚カレンダー〜夫婦の正しい終わり方〜 Vol.7

見知らぬ電話番号からの着信。夫の元カノを名乗る女から「会って話したい」と表参道のカフェに行ったら…

「失礼ですが、どちらさまですか?主人の仕事関係の方でしょうか?」

楓は冷静を装いながら答えた。

「仕事関係なんて、まさか!あの奥様にご連絡させていただくのは、私だって本当に勇気が必要だったんですよ」

松島は声色から想像する限りでは、飄々としているように感じる。

「あの、あなたは主人とどういうご関係の方なんですか?私、お会いしたことありませんよね?」

楓は相手の様子に少しムッとし、強めの口調で返した。

「もちろん、お会いしたことはありません。なので、一度お会いしてお話できないかという相談です」

しかし、直接会って話す、という松島の提案に、楓はすぐに返答できない。

「主人とどういう関係かわからない人とお会いして、何をお話すればいいんでしょう?

あの、私が躊躇する理由、わかります?」

すると、松島はなぜかクスクスと笑っている。

「なにがおかしいんですか?」

楓がムッとすると、松島からさらに思いもよらない答えが返ってきたのだった。

「奥様にこんなこというの失礼だと思うんですが。私、ご主人とお付き合いしていました」

「えっ?お付き合い?」

驚きすぎて、今度は声が裏返ってしまった。



1週間後の土曜日。

楓は花奈をスイミング教室に送ると、また先週と同じカフェに入った。

しかし、今日の相手は晴子ではなかった。

松島さくら。

光朗の元交際相手だというが…本当なのだろうか?

楓が指定した時間よりも前に、松島さくらは窓際の席に座って待っていた。


くるくるとストローをまわし、アイスカフェラテを飲みながら、こっちを見ている。ウェーブがかった長い髪を無造作にひとつに束ね、ノースリーブの黒いワンピースにロエベのマークのあるラフィアのバッグを携えていた。

間違いなく彼女だと、楓はすぐにわかった。

「お待たせしてすみません」

表情なく挨拶をすると、松島の方は妙に礼儀正しく椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。

「お忙しいなか、わざわざありがとうございます。私、松島さくらと申しまして、普段は…」

さすがに面と向かって妻と対峙するのは、緊張するようで、松島の声はうわずって聞こえる。

「あの、私にご用って何かしら?」

彼女の自己紹介を、楓は遮った。のんびりお茶を楽しむつもりはない。さっさと話を聞いて終わりにしたかった。

だが、松島の方も、彼女なりの思惑があってこの場に来ている。

「私、奥様、いえ楓さんと呼ばせていただいてもいいですか?楓さんのお力になりたいんです」

「え?」

一瞬、楓は唖然となった。彼女の言っている意味がわからない。

しかしよくよく考えてみれば、「力になりたい」というからには、現在の楓の状況を熟知しているに違いなかった。

「つまりあなたは、私が今どういう状況下にあるか、ご存じってことよね?」

楓が確認すると、松島は「ええ、もちろん」と即答した。

「私は、1年前まで光朗さんとお付き合いしていました。つまり楓さんから見たら、元浮気相手、ということになります。

私は不本意な別れ方をしましたが…そういう意味では、私たち気が合うんじゃないかと」

そう言うと、松島は小さく笑った。

「気が合うかどうかは、なんとも言えないけど。主人に付き合っていた方がいたなんて、少しびっくりしました。

だって、家を出る前の主人は…」

ここまで言うと、楓の瞳にうっすらと涙が溢れてくる。

元浮気相手の前で醜態をさらすなんてありえない、と思っても、込み上げてくる気持ちは抑えようがなかった。


「ごめんなさい。私が知っていた主人って、ほんの表層の部分だけだったのね」

意図せず弱い部分を見せてしまうと、2人の間に流れる空気がゆるんだ。

「楓さんの力になりたいんです。私、あいつを懲らしめたいんです。協力しましょ?ね?」

松島が、今度は親しみやすい笑顔でにっこりと笑った。楓もつられて笑い返す。

だが、ひとつ確かめておかなくてはならないことがある。

「あの、ひとついい?なぜ、今私を助けようと思ったの?私の今の状況、わかってて来ているのよね?」

すると、松島は瞬時に真顔に戻り、じっと楓を見た。

「私、あいつに聞いたんです。妻と調停になったって」

調停になったと聞いたなら、光朗と会ったのは最近だろう。他に何か知っているかもしれない。

「そう…。なら話が早そうね」

そう答えながらも、さっきうっかり涙を見せてしまったのは失敗だったと、楓は内心激しく後悔していた。

なぜなら、この女が本当に自分の味方になるかなんて、わからない。

光朗だって、自分が知っていた人格はほんの一部だったのだ。

楓は松島に気づかれぬよう、テーブルの下でスマホのボイスレコーダーアプリを立ち上げ、録音ボタンを押した。


▶前回:エルメスのバッグも、カルティエの時計も封印。34歳セレブ妻が、全身1万円以下の服を着る理由

▶1話目はこちら:結婚5年。ある日突然、夫が突然家を出たワケ

▶NEXT:5月30日 木曜更新予定
夫・光朗の浮気相手だったという松島。彼女が語り出した、驚きの内容とは…

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この記事へのコメント

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No Name
見ず知らずの他人から突然連絡来て、のこのこと会いに行く。全く東カレ小説はこの展開が大好きだね。普通の人なら要件も聞かずに直接会うとか怖くて出来ないと思う。松島が嘘言ってて今現在の不倫相手かもしれないけど、探偵に依頼した夫の調査結果まだかよw
2024/05/23 05:2033返信2件
No Name
一年前に別れた不倫相手なら、後から慰謝料請求されるのも嫌だろうしわざわざ離婚で揉めてる妻に会おうとするなんて不自然。 突っ込みどころ満載過ぎてもはや現実味のない「しょうもない話」になってる。
2024/05/23 05:5829返信1件
No Name
晴子がもらってる養育費なんてどうでもいい。離婚した前夫との子ではなく、その後付き合ってた男との子だったはず。 認知をしなければ父であっても養育費の支払い義務は無いんだから。楓とは状況が違い過ぎる。この作者、話をあちこちに広げまくってるけど殆ど前に進んでない。
2024/05/23 05:3323
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