離婚カレンダー〜夫婦の正しい終わり方〜 Vol.7

見知らぬ電話番号からの着信。夫の元カノを名乗る女から「会って話したい」と表参道のカフェに行ったら…

調停において必ず聞かれる3つのこと。

それは、「結婚した経緯」。「離婚を決意した理由」。そして、「離婚後の生活について」だ。

楓の場合は、夫がすでに家を出て別居している。夫も離婚を希望している。

なのになぜ、妻側から離婚調停を申し立てたのか?

それも、調停委員が疑問に思うところだろう…というのが、真壁の考えだった。

実際に想定していた質問が投げかけられた楓は、事前に準備していた通りに答える。

夫とは好きで結婚したが、自分が見ていたのはほんの一面だった。夫は仕事と称して別居の準備を淡々と進め、次第に性格も以前とは変わってしまった、と。

また、以前の温厚で優しかった夫にはもう会えないものだと割り切り、子どものために少しでも早くリスタートを切りたい、と切々と訴えたのだった。

すべて、事前に真壁と準備しておいた答えのままだった。

「離婚を決意した理由」については一番難儀したものの、よく考えた上でやはり、本当のことを伝えた。



「へぇー、調停って意外と戦略的なんだね。でも、そこまでしてるなら養育費もばっちり取れそうじゃん」

そう言って晴子は、瞳を輝かせる。

たしか晴子は、未婚のまま子どもを産み、子どもの父親からは月々の養育費だけもらっているはずだ。その金額は、わずか3万円程度。不本意なうえに、それもいつまで続くかわからないと以前ぼやいていた。

「うん、養育費算定表っていうものがあって、もらう側と払う側の年収のぶつかるところが基準額なんだって。ほら、見て」

楓は、家庭裁判所のサイトからダウンロードした表を晴子に見せた。

「これによると、私は仕事をしていないから、ここ。24〜26万ってあるでしょ?でもこれだけだと、全然足りないな…」

裁判所の表は、2,000万以上の所得者には対応されていない。

おそらく光朗の年収は、2,000万以上はあるはず。けれどこれ以上の養育費を希望する場合は、双方の話し合いで増額する必要があるのだ。

「花奈ちゃん、私立小に入れるためにお教室通ってるんでしょ?仕事を始めるとはいえ、もうちょっと欲しいところだよね」

「そうなんだよねー」

このままの金額では、もし私立に入ったとしても、授業料だけで養育費の半分以上が消えてしまいそうだ。

そのうえ、住む家や仕事を探さなくてはならないことなどを考えると、前途多難であることは間違いない。


「私立小のお受験は、花奈もお教室とか頑張ってるからやめさせたくはないけど…。お受験の面接って、両親揃っていることが前提みたいなところがあるから、難しいかもしれない」

調停は、数ヶ月では終わらない。そう真壁から聞いている。

養育費を取り決めたあとは、財産分与について話し合っていくことになるはずだが、楓が求める金額次第では難航し、より長引くことになるだろう。

「別居のままお受験を迎えちゃう可能性もあるし…」

「単身赴任で海外ですって言えばいいじゃん」

花奈のお受験をやめるか、続けるか。離婚問題が進むにつれて頭を悩ませていた楓は、晴子の妙案に思わず笑ってしまう。

「無理よ。花奈がうっかり喋っちゃう」

「確かに、子どもに嘘はつかせられないよね」

こうしておしゃべりしていると、調停のこともネタとして話すことができる。楓は少し気分が楽になるのだった。

「そろそろ水泳のお迎えなんじゃない?」と晴子が時間に気づく。

「ほんとだ。行かなくちゃ」

楓が立ちあがろうとした、その時だった。

不意にスマホが振動し、見知らぬ電話番号からの着信を告げた。

「あら?誰だろ。最近知らない番号からの電話、出るのが怖いんだよね…」


恐る恐る着信ボタンを押したところ…

「もしもし?」という聞いたことがない女性の声に、楓は一層警戒した。

「はい…」

返事をすると、相手は電話越しにテンション高く名乗ったのだった。

「私、松島さくらと申します」

聞いたことのない名前だが、楓もつられて「こんにちは…」と答えた。もしかしたら、何かの営業電話かもしれない。だったらさっさと切って、娘を迎えに行くのが正解だ。

しかし、「あの、今実は…」と楓が言いかけた時だ。

「お時間はとらせません。私、ご主人のことで…お話が」

切られると思ったのか、女性は早口だった。

だが、楓の方は驚きがそのまま顔に出でしまう。

「楓さん、どうしたの?」

晴子が心配そうに、小声で聞いてきた。

楓はじっと晴子の目を見つめたまま、息を呑んだ。

この記事へのコメント

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No Name
見ず知らずの他人から突然連絡来て、のこのこと会いに行く。全く東カレ小説はこの展開が大好きだね。普通の人なら要件も聞かずに直接会うとか怖くて出来ないと思う。松島が嘘言ってて今現在の不倫相手かもしれないけど、探偵に依頼した夫の調査結果まだかよw
2024/05/23 05:2033返信2件
No Name
一年前に別れた不倫相手なら、後から慰謝料請求されるのも嫌だろうしわざわざ離婚で揉めてる妻に会おうとするなんて不自然。 突っ込みどころ満載過ぎてもはや現実味のない「しょうもない話」になってる。
2024/05/23 05:5829返信1件
No Name
晴子がもらってる養育費なんてどうでもいい。離婚した前夫との子ではなく、その後付き合ってた男との子だったはず。 認知をしなければ父であっても養育費の支払い義務は無いんだから。楓とは状況が違い過ぎる。この作者、話をあちこちに広げまくってるけど殆ど前に進んでない。
2024/05/23 05:3323
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