2024.05.23
離婚カレンダー〜夫婦の正しい終わり方〜 Vol.7調停において必ず聞かれる3つのこと。
それは、「結婚した経緯」。「離婚を決意した理由」。そして、「離婚後の生活について」だ。
楓の場合は、夫がすでに家を出て別居している。夫も離婚を希望している。
なのになぜ、妻側から離婚調停を申し立てたのか?
それも、調停委員が疑問に思うところだろう…というのが、真壁の考えだった。
実際に想定していた質問が投げかけられた楓は、事前に準備していた通りに答える。
夫とは好きで結婚したが、自分が見ていたのはほんの一面だった。夫は仕事と称して別居の準備を淡々と進め、次第に性格も以前とは変わってしまった、と。
また、以前の温厚で優しかった夫にはもう会えないものだと割り切り、子どものために少しでも早くリスタートを切りたい、と切々と訴えたのだった。
すべて、事前に真壁と準備しておいた答えのままだった。
「離婚を決意した理由」については一番難儀したものの、よく考えた上でやはり、本当のことを伝えた。
◆
「へぇー、調停って意外と戦略的なんだね。でも、そこまでしてるなら養育費もばっちり取れそうじゃん」
そう言って晴子は、瞳を輝かせる。
たしか晴子は、未婚のまま子どもを産み、子どもの父親からは月々の養育費だけもらっているはずだ。その金額は、わずか3万円程度。不本意なうえに、それもいつまで続くかわからないと以前ぼやいていた。
「うん、養育費算定表っていうものがあって、もらう側と払う側の年収のぶつかるところが基準額なんだって。ほら、見て」
楓は、家庭裁判所のサイトからダウンロードした表を晴子に見せた。
「これによると、私は仕事をしていないから、ここ。24〜26万ってあるでしょ?でもこれだけだと、全然足りないな…」
裁判所の表は、2,000万以上の所得者には対応されていない。
おそらく光朗の年収は、2,000万以上はあるはず。けれどこれ以上の養育費を希望する場合は、双方の話し合いで増額する必要があるのだ。
「花奈ちゃん、私立小に入れるためにお教室通ってるんでしょ?仕事を始めるとはいえ、もうちょっと欲しいところだよね」
「そうなんだよねー」
このままの金額では、もし私立に入ったとしても、授業料だけで養育費の半分以上が消えてしまいそうだ。
そのうえ、住む家や仕事を探さなくてはならないことなどを考えると、前途多難であることは間違いない。
「私立小のお受験は、花奈もお教室とか頑張ってるからやめさせたくはないけど…。お受験の面接って、両親揃っていることが前提みたいなところがあるから、難しいかもしれない」
調停は、数ヶ月では終わらない。そう真壁から聞いている。
養育費を取り決めたあとは、財産分与について話し合っていくことになるはずだが、楓が求める金額次第では難航し、より長引くことになるだろう。
「別居のままお受験を迎えちゃう可能性もあるし…」
「単身赴任で海外ですって言えばいいじゃん」
花奈のお受験をやめるか、続けるか。離婚問題が進むにつれて頭を悩ませていた楓は、晴子の妙案に思わず笑ってしまう。
「無理よ。花奈がうっかり喋っちゃう」
「確かに、子どもに嘘はつかせられないよね」
こうしておしゃべりしていると、調停のこともネタとして話すことができる。楓は少し気分が楽になるのだった。
「そろそろ水泳のお迎えなんじゃない?」と晴子が時間に気づく。
「ほんとだ。行かなくちゃ」
楓が立ちあがろうとした、その時だった。
不意にスマホが振動し、見知らぬ電話番号からの着信を告げた。
「あら?誰だろ。最近知らない番号からの電話、出るのが怖いんだよね…」
恐る恐る着信ボタンを押したところ…
「もしもし?」という聞いたことがない女性の声に、楓は一層警戒した。
「はい…」
返事をすると、相手は電話越しにテンション高く名乗ったのだった。
「私、松島さくらと申します」
聞いたことのない名前だが、楓もつられて「こんにちは…」と答えた。もしかしたら、何かの営業電話かもしれない。だったらさっさと切って、娘を迎えに行くのが正解だ。
しかし、「あの、今実は…」と楓が言いかけた時だ。
「お時間はとらせません。私、ご主人のことで…お話が」
切られると思ったのか、女性は早口だった。
だが、楓の方は驚きがそのまま顔に出でしまう。
「楓さん、どうしたの?」
晴子が心配そうに、小声で聞いてきた。
楓はじっと晴子の目を見つめたまま、息を呑んだ。
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