アオハルなんて甘すぎる Vol.12

「チープな正義感は通用しない」28歳女が、友人のために経済界に顔が通じる大物を怒らせてしまい…

― 雄大さんも、何度も。

「その世界では、宝ちゃんが信じてきた“世の常識”が通じないどころか、悪手になる」

タクシーの中で愛さんに言われた言葉を思い出した。

「宝ちゃんのチープな正義感も、宝ちゃんが育った田舎のあったかい家庭での理論も、ここでは…私と彼の間には通用しない。…私が今までどれだけ、あの子と暮らすために…」

私のチープな正義感。私の常識が通用しない世界。愛さんの言葉が脳内で何度も繰り返される。


話を戻すけど、と雄大さんが言った。

「愛が旦那に反論しなかったのがなぜかって話ね。おそらく今日、愛はひどいことを言われてただろ?容易に想像がつく。でもどんなに理不尽なあの人の態度にも、人格を否定される言葉にも反論しなかったはずだ。でも愛は、ただ怖くて黙っていたわけじゃない。

反論すれば元旦那のスイッチを入れてしまう。恐ろしいほど用心深くて、どんなに小さな危険分子でも事前に摘み取る人のスイッチを。一度戦闘モードに入ると、歯向かう相手を徹底的に叩き潰すまで気が済まないんだよ、あの人は。

だから愛は未来のために、じっと我慢してたんだ」
「…あ」

気が付いてしまった。私は…。

「…もしかして私が……噛みついてしまったことで…その、戦闘モードを…」

雄大さんは、電話で話した愛さんは興奮していたから、どこまで正しく聞けたかわからないけど、と前置きしてから、説明を続けてくれた。

「タケルくんを海外に留学させる話は、内緒の携帯電話がバレたせいだし、それは愛の浅はかさであり愛のミス。でもその上でさらにというか、宝ちゃんの言葉があの人に火をつけた可能性が高い。それに愛は焦ってるんだ」
「…私が…」

― どうしよう…。

気づけば大輝くんが私の横に座っていて、心配そうに肩を支えてくれていたけれど、とんでもないことをしてしまったという焦りで、その優しさに気がつくのが遅れた。

「宝ちゃんも怖かっただろうに、愛のために彼に歯向かってくれたんだということは愛もわかってた。ただ宝ちゃん、愛がタケルと暮らしたいと願ってる、ってことを言っちゃったみたいだけど…それは覚えてる?」

「すみません…言ったかもしれないんですけど、その…」

私は自分があの時何を言ったのか、はっきりとは思い出すことはできなかった。緊張していたし、興奮していたし、なにより怒りが膨れ上がっていたから。でも。

愛さんから聞いたという雄大さんの説明によると私は、「タケルくんと暮らす未来を夢見て頑張っている愛さんを、母親じゃないって言ったこと、謝って」「息子と暮らしたくない母親なんていない」とあの人に嚙みついたらしかった。

「宝ちゃんのその言葉に対して、愛はタケルと暮らしたいと言ってるのか?的なことをあの人は答えたらしいんだけど、それに愛は不安になってる。秘密にしてきた願いがバレたんじゃないか、タケルくんと一緒に住むために計画してきたことを、つぶされるんじゃないかって」

― どうしよう、どうしたら。

この記事へのコメント

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No Name
大輝、頼んだ!!
2024/04/20 05:3354
No Name
確かにこの話は財閥系の韓流ドラマ観てる感覚。本当に面白いし続きがとっても気になる。来週も楽しみ。
2024/04/20 05:3542
No Name
タケフミも、裏で色々悪い事やってそうだし反社との繋がり含めて色々と調べたら最後は何かで逮捕とかになりそうだね。Netflixの見過ぎかもしれないけど。
2024/04/20 05:5136
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