変わりゆく東京、進化するグルメ 「東京美食エリアガイド」 Vol.8

変わりゆく東京、進化するグルメ 「東京美食エリアガイド」

東京において、六本木ほどグローバルな街はないだろう。
ダイニングシーンほど、それは顕著。
例えば、東京ミッドタウン。各国の美味が百花繚乱だ。

左.ダック・コルマ¥2,600。鴨もも肉のカシューナッツグレービー煮込み

右.タンドリーチキン¥2,800。大山地鶏を秘伝のマサラに漬け込んだ逸品

ニルヴァーナ ニューヨーク

ニューヨーカーも愛した進化を続けるインド料理。

まるでメインディッシュのように美しく盛り付けられた鴨肉。手の込んだフレンチの味を期待し口に運べば、その淡い期待は嬉しい裏切りに出合うこととなる。鼻孔をくすぐるのは、スパイシーな香辛料と優しいカシューナッツの香り。

そう、この店はニューヨークで1970年に誕生し、優美に盛り付けられたインド料理が瞬く間にニューヨーカーの心を射止めたインド料理の名店。2002年に惜しまれつつその歴史に幕を閉じた本店の味は、六本木の地に継承され、今なお進化を続けていたのだ。

名物であったタンドリーチキンはそのままに、日本らしく旬を取り入れた新たな美味へ挑み続ける同店。この店では、カレーのお供に、ぜひワインを選んで欲しい。

※こちらの店舗は現在閉店しております。

左.縞海老とカラスミの冷製カペッリーニ。トマトソースは粒マスタード入り

右.約20品目のカノビアーノ サラダ。料理はともにディナーコース¥6,825

カノビアーノカフェ

CANOVIANO CAFÉ

緑鮮やかな庭を眺めながら堪能する自然派イタリアン。

イタリアンシェフのキーパーソンである植竹隆政氏。その功績は野菜が持つ本来の滋味をいち早く料理で表現した点にある。名付けて、自然派イタリアン。風味を損なわぬようバターや生クリームなどの動物性油脂や、唐辛子、ニンニクを極力使わないのも特徴で、こうして完成するひと皿は実に軽やか。満足度も高く、身体が喜んでいるのを実感するのだ。

そんな氏が東京ミッドタウンの特別な場所で展開するのがこの店だ。軽やかさと素材の滋味が体感できるのは無論、ここでは、かの安藤忠雄氏が設計した空間も見事だ。「スタイリッシュでガラス越しに芝生も広がる。一緒に雰囲気も楽しんで頂ければ」と店長の久戸瀬浩二氏。六本木でこのシチュエーションは別天地の感だ。

※こちらの店舗は現在閉店しております。

左.イベリコ豚の生ハム¥2,600。生ハムはハモンセラーノとイベリコの2種を用意

右.イベリコ豚ホホ肉の串焼きモーロ風1本¥1,000(写真は2本)。フォアグラ、アプリコットソース

ボデガ サンタ リタ

Bodega Santa Rita

スペインの滋味がもたらす新たな焼きとんの世界。

スペイン・ラマンチャ地方の素朴な家庭料理を提供する店の自慢は、マドリッド以南でポピュラーなピンチョモルーノと呼ばれる串焼きの数々。スペイン産のイベリコ豚を厳選し、各部位ごとの味わいに合わせフォアグラ、ドライトマト、ペッパーソースなど、最良の組み合わせを提案してくれる。一串一串、丁寧に炭火で焼き上げた逸品は、いわばスペイン版の焼きとんといった塩梅。素材の旨みを引き出すシンプルな味わいは、日本人の舌にも驚くほどしっくり馴染むから不思議だ。

加えて同店は、麻布十番にあるスペイン料理の名店『バル レストラン ミヤカワ』の姉妹店。店名にもなっている『ボデガ サンタ リタ』の現地ワイナリーから取り寄せるワインなど、自社直輸入ワインを筆頭に安くて旨いスペイン産ワインも種類豊富に取り揃えている。

串焼きとお酒が恋しくなる冬の夜。スペイン料理という新たな選択肢も、あなたの抽斗に加えてみてはいかがだろう。本命の一軒となること請け合いだ。

左.白身魚の広東式あっさり醤油蒸し。時価。この日はキンキ。ご飯が進む味

右.茨城県産和牛リブロースの黒胡椒ソース炒め¥3,000。野菜はシャキシャキ

シリン ファンロンユェン

SILIN火龍園

産直食材を駆使して、安堵する家郷菜も展開。

素材に徹底してこだわり、中国料理の真髄を伝えるレストランで、腕を揮う料理長は唐朱興氏。例えば、沖縄産さいまき海老、房州産天然真鯛、茨城県産美明豚といった産直食材が並ぶメニューを見ただけでも明々白々。塩漬け玉子や釜焼きチャーシューなど、自家製も当たり前の体で、王道を歩みつつどこか繊細さを宿した料理の数々に惚れ込んだファンは少なくないのだ。

しかし、唐氏は「中国料理の基本を大切にしながら、日本人の口に合うようアレンジしているだけ。毎日食べても飽きない味を作ろうと心掛けているだけだよ」と殊勝なお言葉。その笑顔はうんちくなんていいから、とにかくお腹一杯、食べてって、そう言っているように見受けられるのだ。

中国語で家庭料理を指す“家郷菜”のラインアップは唐氏ならではの試み。そこには、活力源としてはもちろん安堵の気持ちも、料理に求められているとの考えがある。家郷菜もシェフの手にかかれば見事なレストラン料理になってしまうのだが、ほっとできる料理が都心にあるということは、本当に幸せなことだと思う。

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