今日、私たちはあの街で Vol.11

「最近、お家デートばっかり…」同棲して5ヶ月、28歳女の不満をぶちまけたら彼は…



「いってらっしゃい」

「いってきます。今夜は遅くなりそうだから、美玲は先に休んでね」

パタンと玄関ドアが閉まり、自然光に照らされたリビングが静寂に包まれる。

― また平日が来ちゃった。

週末に育んだあたたかで平和な心が、美玲の中でリセットされていく…。

日本への移住にあたり、アルノーに頼るのではなく自分の力で生活基盤を作ると決めた美玲は、来日後すぐに仕事探しを始めた。

ドイツ語、英語に堪能な美玲だが、日本語は勉強を始めたばかり。ドイツの出版社で長年勤めた経歴も、ここ日本で活かすことは難しい。

ただでさえ少ない募集の中、書類選考は通らない。面接は最終止まり…と、就職活動は難航中だ。


美玲には日本に友人と言える人物はおらず、平日はいつもひとり。対するアルノーは友人に囲まれ、仕事でもどんどん交友関係を広げていく。

― アルノーと心の距離を感じるわけじゃない。けど、差は開いていくように感じる…。

社交的でお酒も好きなアルノーは、居酒屋文化を気に入り積極的に予定を入れている。今夜も飲みに出かけるのだろう。

思えば日本に来てから、ふたりの食事はもっぱら自宅だ。

アルノーに誘われて飲み会に同行することはある。誘われれば楽しげに振る舞うが、結局はみんなアルノーの友達であり、美玲の孤立感は高まるばかりだった。


その週の金曜日、アルノーに誘われて飲み会に顔を出すと何やら盛り上がっている。

「アルノー。楽しそうだね!」

「あ、うん。なんでもないよ。こっちへおいで、美玲は何飲む?」

アルノーの態度が気になった美玲は、隣にいた女性に声をかける。

「何の話してたの?」

「アルノーが今日、親切な日本人に助けてもらったんだって!直子さんっていうらしいんだけど、それが綺麗な人で」

「え…」

美玲の目の色が変わり、アルノーは慌ててフォローを入れる。

「美玲、誤解しないで。彼女、ドイツ語が上手だったから話が弾んで…。連絡先は交換したけれど、何もないからね」

曇りのない瞳で断言するアルノーに、やましさは1ミリも感じない。しかし、美玲は良い気はしなかった。

「写真、見せて」

Facebookのアイコンを見せてもらうと、小さい写真ではあるものの、控えめで上品な雰囲気の漂う女性であることが遠目にもわかる。

「ふーん。…アルノーは、どんどん友達ができていいなぁ」

アルノーと日本人女性の出会い。

それを知った美玲の心に、やきもちのような感情が芽生えたのはもちろんのことだ。

しかし、それだけではない。

同時に湧き上がった感情は、彼の交友関係が広がっていくことへの、純粋な羨ましさだった。



翌週、月曜日を迎えた美玲の気持ちは、いまだに晴れずにいた。

― めぼしい会社の面接も終わったし、何しよう…。

仕事は決まらないし、友人もいない。

恋人との間に広がる格差に、焦りの気持ちはある。でもそれ以上に、意のままにならないこの数ヶ月に美玲は疲れていた。

― こんな気持ちで、ひとり家にいるなんて耐えられない…!

思わず外に出ると、青い空から柔らかな日差しが降り注ぎ、おだやかな春風が美玲の頬を撫でる。

歩いているうちに気持ちが上向いてきたことを感じた美玲は、思いたって恵比寿方面へと向かった。

美玲が目指すのは、広尾の街からも見えるひときわ高い建物だ。

この記事へのコメント

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No Name
アルノーとは結婚してないメイリンは、何のビザで日本に来たのかな? 学生でもなく就職も決まってない、日本語も全然しゃべれない(勉強を始めたばかり)
段階でよくビザ取れたなと。
2024/04/30 05:2939返信1件
No Name
台湾人とドイツ人の話を日本語で読むと、何か変な感じ!小さな違和感が先行してしまい最後まで楽しめなかった。仕方ないのは分かるけどいってらっしゃい!とか頑張ったねなど、日本人特有の表現も出てきてたし。
2024/04/30 05:2426
No Name
既視感有り有りなストーリー展開。 前にも似た話読んだことアルノー
2024/04/30 06:1120
もっと見る ( 8 件 )

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