男と女の東京ミステリー Vol.33

大手損保を辞める28歳女。退職祝いにもらった色紙の裏に、不穏なメッセージを見つけ…

人の心は単純ではない。

たとえ友情や恋愛感情によって結ばれている相手でも、時に意見は食い違い、衝突が起きる。

軋轢や確執のなかで、感情は歪められ、別の形を成していく――。

これは、複雑怪奇な人間心理が生み出した、ミステリアスな物語。

▶前回:バーで出会ったミステリアスな男性に惹かれ、交際した27歳女。彼には意外な過去があり…


寄せ書きの裏側【前編】


「うわぁ、いい感じのお店。ここ、ずっと気になっていたんです」

美月は店内を見回しながら、テーブルを挟んで向かいに座る紗理奈に礼を述べる。

紗理奈は、同じ大手損害保険会社に勤める3歳上の先輩。

今日は仕事終わりに、職場近くの居酒屋に連れてきてもらっていた。

「紗理奈さん、ありがとうございます。さすがにひとりじゃ入る勇気なくって…」

「私も久しぶり。以前は、同期の子とたまに飲みに来てたんだけど。彼女が異動してからはめっきり来なくなっちゃって」

店は、軒先に赤提灯のぶら下がった創業50年以上になる焼き鳥屋で、界隈では隠れた名店として知られている。

店内には会社帰りのサラリーマンが多く、煙や炭火の匂いが漂うなかでの活気に満ちた雰囲気が、酒好きには心地よい。

「お疲れ~!」

運ばれてきたズシッと重みのあるビールジョッキを合わせ、口もとに運ぶ。

冷たいビールが喉を通過し胃に流れ込むと、1日の疲れが癒えていく。

「美月が、こっちに異動してきて3年かぁ…」

紗理奈がしみじみとした様子で言うのには、ある理由があった。

美月は新卒で新宿本社に4年勤務した後、今の日本橋支社に異動した。

以来、紗理奈とは親しくしてきたが、1ヶ月後に退社を控えている。

「オーストラリアに語学留学だっけ?いいなぁ。行ったことない」

「紗理奈さん、ぜひ遊びに来てください!」

「うん!行きたい行きたい!」

紗理奈が嬉しそうな笑顔を見せる。

「けど、美月は偉いよね。キャリアアップのためっていう明確な目標があるんだから」

「いずれは、海外で仕事がしたくって。今のうちにビジネス英語のスキルアップを図ろうと思って」

「うん。偉い偉い」

将来のビジョンを伝え、素直に感心する紗理奈を前に、美月は少し胸が痛んだ。

この記事へのコメント

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No Name
課長に嵌められただけ? 遊びのつもりだったけど美月がどんどん調子に乗ってきたからうざくなって会社を辞めさせたかった。離婚なんてする気ないと思うね。
2024/02/29 05:2065返信2件
No Name
課長は色気にあふれていて密かに憧れを抱く女子社員もちらほらいる位だから、射止めたとか勝手に思ってるのはアホの美月だけで他の人とも不倫してるよ。
2024/02/29 05:2860
No Name
社内不倫してるなら誰にも言っちゃダメなんだわ。信頼出来る同僚にしか伝えてない?って、なんで言う必要あった? マヌケな女の話だね。
2024/02/29 05:3258返信1件
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