忙しいなか、「限られた時間の中で自分は子育てや家事を手伝っている」と主張するビジネスマンがいるが、手伝っているという発想が根本的に間違っている。
子育てや家事は家にいる大人全員の主業務だ。「手伝う」と思っている時点で、家族への気くばりが欠落している。
ここで自分にとっての「楽屋」のお話をしよう。
楽屋とは舞台の出番を待つ控室のこと。役者はそこで化粧をしたり身なりを整えたりする。誰も見ていない場所で、本番前後でリラックスできる場所でもある。
さて、ビジネスパーソンにとっての「楽屋」はどこだろうか。
多くの人が「家」というだろう。
私は家を「楽屋」にしてはいけないと思っている。外で働いていない家族にとっては、家が本番の舞台だからだ。本番の舞台を楽屋扱いする人がいると困るのは当然。
「リラックスできないんだったら、家じゃない!」という意見が聞こえてきそうだが、不必要な緊張は解いていい。ただし、弛んではいけないと思う。リラックスと弛みは違う。
私は「弛むこと」を否定しているのではない。「弛む場所を間違えてはいけない」ということ。
私はひとりの時間が弛むときだと考えている。誰にも迷惑をかけずに「弛む」。そういう時間をつくろう。
リーダーは素でやるものではない。その場で求められている姿をイメージし、それに近づくべく努力をする。
これは私のリーダー論だ。家においても同じだと考える。家の中で期待される姿があるはずなので、それをイメージして近づくべく頑張る。家も本番の舞台のひとつなのだ。
①次の人のことを考える
たとえば、洗面台を使ったあとは、そのあと使う人のことを考え、それが男性であっても女性であっても関係なく必ず拭くというルールがあってもよい。
それが次に使う人への気くばりだ。家の中であっても次に使う人のことを考えることは必要である。
家庭内でも同様、職場でも次の人への気くばりを思い出してみよう。
たとえば、シュレッダーのゴミがパンパンになっているのに、誰かが捨てるだろうと、自分で捨てるのが面倒くさいからぎゅうぎゅうに押して、そのあとをやり過ごすとか。
コーヒーメーカーのところにコーヒがこぼれていても、時間がないのを口実に拭き取ることをしないとか。
家庭でも職場でも、自分が次の人の立場だったらと考えることが必要だ。
私がホテルで働いていたとき、総支配人がフロアに落ちているゴミを発見すると、さっと拾って自分のポケットに入れたのを見かけた。
あるとき総支配人になぜそうするのかを聞いたところ「ここは自分の家なんだから、ゴミを拾うのは当然でしょう」と言った。
それ以来、自分の会社のオフィスもコンサルで伺ったりする場所も、基本的に自分がいまいる場所は「家だ」と思うようになり、私もゴミが落ちていたら拾うようになった。
②積極的に「ありがとう」を言う
基本的に、組織の中の人間は、家庭であろうがコミュニティーであろうが、会社組織であろうが、大なり小なり誰かに認めてもらいたい、と必ず思っている。
その「認める」という一番わかりやすい方法が「褒める」ということ。
特に、近い間柄の人に対しては「ありがとう」となかなか言わない傾向にある。
だからこそ、そこは意識して「ありがとう」を言っていけるといいと思う。
「ありがとう」のほか、「さ・し・す・せ・そ」も有効だ。
「さすが」
「しらなかった」
「すごい」
「センスがいい」
「そうなんだ」
仮に会話の流れの中で、心のこもっていない「そうなんだ」「さすが」があったとしても、意外にそう言われた本人はうれしいものだ。
これは家族間だけではなく、会社の上司や同僚、友人関係においても社会に出ればどこでも同じことだと思う。
4. 気くばりのある職場は、ストレスがなく働きやすい職場になる
ストレスがなく働きやすい職場にするために、リーダーができることを紹介する。
①部下の時間を奪わない
上司の無意識なブラック行動の典型が、部下の時間を奪うこと。
上司のメールの処理が遅いと、部下の仕事を遅延させることになる。深夜や休日にまとめて返信するのはブラック上司確定。隙間の時間を利用して、携帯端末からどんどん処理すべきだ。
深夜、休日に返信を書いた場合には、下書きフォルダに入れておき、翌朝に送信するとよいだろう。
また、返信が遅れそうな場合には「◯日までに返事する」ととりあえず返す。
部下のスケジュールが公開されているにもかかわらず、それを確認せず呼びつけたり、仕事の依頼をするのもブラック上司だ。
部下の行動や負荷を把握していないうえに、部下の時間は自分のものという意識が根底にあるからだ。
②周囲を批判しない
ある企業に自分を高める努力を怠らない人がいた。
誰よりも長く働き、熱心に課題に取り組む。その努力が認められ、30代にして役員になった。
ところが彼をリーダーにした企画が、すべて頓挫したのだ。
なぜなら、周りの人が動かないからだ。「どうしたものか」と社長から相談を受け、私はこの彼を分析することになった。
色々検討した結果、導き出されたのは、彼が周囲の批判をすることが原因であるとわかった。
彼の発言には常に他人へのネガティブな要素が含まれていた。そこに、「自分のほうが優れている」という意識が見え隠れする。
こうしたタイプは、他人を蹴落としてでも上へ行こうとする。少なくとも周囲の目にはそう映るだろう。
彼のように、何事も自分中心で野心のある人と一緒に仕事をすると、周りの人たちはそのための「駒」にされてしまう。
彼は何かを成し遂げたいという思いが強すぎて、足元が見えなくなっていたのであろう。周囲を動かすには、自分を捨てて奉仕する姿勢も必要だ。
そこで彼にこうアドバイスした。
「まずはあなたの志をみんなに感じてもらえるような存在になりましょう。いまは個人的野心のほうが目立っています。この意味を考えておいてください」
志ある人には人が集まる。野心ある人からは人が離れる。リーダーとなるべき人は常に肝に銘じてほしい。
5. 本書のココがすごい!
今回紹介した『リーダーの気くばり』柴田励司著(クロスメディア・パブリッシング)のすごいところは下記に集約される。
①時代とともに優れたリーダーに求められることが変わってきていることが学べる。
②「気くばり」という抽象的なスキルを、具体的な事例をもとに紹介しているので実践しやすい。
③著者自身のリーダー経験や多くのリーダーたちと接してきた知見をもとに書かれているので、現場の声が非常にリアル。
【著者】 柴田励司(しばた・れいじ)
株式会社IndigoBlue代表取締役。上智大学文学部英文学科卒業後、京王プラザホテルに入社。同社在籍中に、在オランダ大使館に出向。その後、京王プラザホテルに戻り、人事改革に取り組む。
1995年、マーサージャパンに入社。同社取締役を経て、2000年に38歳で日本法人代表取締役社長に就任。
2007年に同社社長職を退き、キャドセンター代表取締役社長に就任し、経営破綻していた同社を1年半でV字回復・黒字に転換。
その後、カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役COO、パス株式会社CEOを歴任、現在に至る。
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