2023.10.02
30.5歳~女たちの分岐点~ Vol.3「30.5」歳――。
それは女性にとって節目となる年齢だ。
しかし、必ずしもそこが飛躍のタイミングになるとは限らない。
東京大学法学部を「オール優」で卒業し、財務省へ入省。大手弁護士事務所を経て米ハーバード・ロースクールに留学し、ニューヨーク弁護士に登録。
そんな華々しいキャリアを持つ今回のゲスト・山口真由さんも例外ではない。
彼女の「30.5」歳に迫る。
▶前回:「私のモットーは走りながら考える」バリキャリ金融女子・河村真木子が迷うときに実践する2つのこと
取材・文/風間文子
1983年札幌市生まれ。東京大学法学部を卒業後、財務省に入省。退官後は2015年まで弁護士として法律事務所に勤務した。
その後1年間、米ハーバード大学ロースクールに留学し、米ニューヨーク州弁護士登録。帰国後に東大大学院を修了し、信州大学特任教授に就任。
現在はテレビ朝日系『羽鳥慎一 モーニングショー』、TBS系『ゴゴスマ』などの報道番組でコメンテーターとしても活躍中。
―― 山口さんにとっての「30.5」歳とは?
「自分はエリート中のエリート」。10代、20代の私は常にそう意識して生きてきました。
そして職場で思うようにいかないと、落伍者になる前に自分でリセットボタンを押して、問題から目を背けるような人生を歩んできたんです。
ですが、それもままならなくなって、自分が置かれている状況が滑稽に思えたのがちょうど31歳の時です。
―― 新著『挫折からのキャリア論』(日経BP)でも、華麗なキャリアとは裏腹に赤裸々な挫折の数々が語られていますね。
本にも書きましたが、東大をトップで卒業して、財務省に入省した時の私は万能感の塊だったんですよ。「私にできないことはない」っていうぐらいの自信がありましたし、配属先も主税局という省内の花形の部署のひとつでした。
ですが、入省して程なく、私が得意としてきた勉強と仕事は全くの別物であるということを思い知らされました。
それまでの私がやってきた勉強とは、学期という期間中にインプットし続けて、期末にちょっとアウトプットすること。期末試験では、簡単に結果を出せる。
対して仕事では、いつ何時であっても、当然のようにイレギュラーな対応を求められる。そんなマルチタスクが、私にはできなかったんです。
―― そこで、どう対応されたんですか?
もう日々、頭の中は混乱の連続でした。だけど、自分はエリートの中のエリートだっていうアイデンティティーがあったので、どうしても自分が仕事で苦労している“落ちこぼれ”だっていうことを認められなかったんです。
結果的にミスも多くて、上司や同僚に迷惑をかけ続けてしまった。でも、そういう状況を素直に受け入れて、コツコツ成長していく気持ちにもなれない。結果、自分が“キラキラ”でいられるうちにリセットするしかないと思い、転職を選ぶんです。
それが、入省して2年目、24歳の秋のことでした。
挫折のなかで知った「自分」という存在
―― 財務省を退職後に、弁護士事務所に転職。なぜ弁護士になろうと思ったんですか?
弁護士を選んだのは東京大学3年生の時に司法試験に合格しており、やはり「エリート人生」を捨てたくないという気持ちが強かったから。そして、企業法務の大手事務所にアソシエイト弁護士として就職しました。
仕事の内容は、企業調査を行う際の資料作成が主でした。簡単にいうと、リサーチした内容を文章にする業務なのですが、それは学校の勉強と似ていて私にとっては楽勝だった。
事務所内でのレンジもどんどん上がっていき、キャリアチェンジは成功したと喜びました。
ですが、転職して3年目になると状況は一変するんです。
―― 28歳の頃ですね。今度は何があったんですか?
当然といえば当然なんですが、レンジが上がるに従って後輩が作成したリサーチ文章のチェックなども任されるわけです。
ですが私は、後輩が書いた内容が良いのか悪いのか、何をどうすれば良くなるのかといったことを熟慮して、その改善点を的確に指示するといったことができなかった。
ようは機械的なインプットとアウトプットは容易にできても、自分の頭で考えることが苦手だったんですね。
―― それで…、どうなるんですか?
私は、どうせ上司が後でちゃんと修正するのだから、私のところで止めちゃいけない。とにかくスピードが大事だと判断して、ろくに修正もしないで上司に委ねるんです。
上司からは「もっと頭を使って」と指示されましたが、できないものはできないからと私のやり方を続けていたら、どんどん評価は下がっていきました。
―― その一方、山口さんはバラエティ番組に出演するようになる。これには何か戦略がありましたか?
メディア出演に特別な戦略があったわけではありません。
私は評価されるべき人間だと思っているのに、実際は評価されていない現実に耐えられなくて。ただ自分を評価してほしい、その一心からの行動でした。
―― 山口さんなりに、必死にもがいたんですね。
とはいえ、保守的な弁護士事務所からすれば私のメディア出演は好ましくない。プロジェクトのアサインも日に日に少なくなり、私の居場所はなくなっていきます。
結局、何もすることがなくて勤務時間内はオフィスでメールチェックをして時間を潰し、夜は図書館に行って好きな本を読んで現実逃避する日々。
当時の雇用形態は、仕事がなければ給料がもらえない仕組みだったので、収入もなくなっていく。それは事実上の、肩たたきでした。
―― 想像しただけでも耐え難いですね。
すべて自業自得だと言われればそれまでですが、当時はどうして良いのかもわからず、そんな状況を知人や家族に話すこともプライドが邪魔をして、挙げ句頼ったのが「いのちの電話」でした。
明確に死にたいと思ったわけじゃなく、誰かに話を聞いてほしかったんだと思います。
結局、通話中だったので電話を切りましたが、その時に初めて「私、何にしがみ付いているんだろう」って思えて、気づくと1人で笑っていました。
そうして弁護士事務所を「辞めよう」と思った。それが、31歳の頃の私です。
―― 山口さんは弁護士事務所を辞められる前後、32歳で米ハーバード・ロースクールに留学するまでに転職活動をされていますが、そこでの結果も良くなかったとか…。
弁護士事務所を辞める決心をしたあとは、次の転職先を決めてから退職を告げようと考えました。
そこでまあ、別の弁護士事務所の面接を10ヶ所ぐらい受けるわけですが、全落ちでしたね。
―― そのときの敗因を分析すると、どういった要因が考えられる?
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