
「あんた、バカじゃないの!」思わず新入社員の腕を掴み、怒鳴ってしまった!これってパワハラ?
現代のビジネスシーンを生き抜く上で、ハラスメント対策は必須だ。
だが、暴力や暴言など明らかなブラックゾーンの案件は全体の1割で、9割は判断しづらいグレーゾーンといわれている。
では、その見極め方とは?
それらのジャッジを手助けするのが、通称ハラスメント探偵と呼ばれる藤川小五郎。
今回は、新入社員のOJT研修中に起こった、出来事を取り上げる。
果たして、どんな結末が待っているのか…。
※この物語は実話を元にしています。※人物名は仮名です。
監修/株式会社インプレッション・ラーニング
代表取締役 藤山 晴久
取材・文/風間文子
前回は:「お仕事できないんでちゅか?」と嘲笑う、スーパー上司のやりたい放題に限界!匿名の内部通報の結末
思わずとった行為がパワハラに…そのジャッジはいかに?
真夏の夜、僕は麻布十番の網代公園からほど近い、あるバーの扉を開いた。
「マスター、連絡をくれたってことは、例のアレが手に入ったんですか?」
薄暗い店内には6人掛けのL字型カウンターと、テーブル席が1席。いつもならカウンターの向こう側には、マスターの澤田助六(50歳)がいるだけのはずだった。
それなのに今日は珍しく客がいて、僕は後に続く声を潜めた。
客は女性で、1人で飲みに来ているようだったが、すでに酔っているのか、カウンターに突っ伏し、いかにも不幸を漂わせていた。
― 失恋でもしたんだろう。とにかく、関わらない方が良さそうだ。
それなのに澤田は満面の笑みを浮かべ、あえて僕にその女性の隣の席を勧めたのだった。
「小五郎、よく来てくれたな。まあ座ってよ」
僕の名前は藤川小五郎、一介のハラスメント問題を専門に扱うコンサルタントだ。
店のマスターである澤田にショートメールで呼び出されたのは1時間前のこと。彼とは以前からある約束をしていて、それがついに果たされるのかと期待してやってきた僕だったが…、どうやら違うようだ。
「七海ちゃん、この人がさっき話したハラスメント探偵だよ」
「いやいや、僕は探偵じゃないし。なんで、そういう展開になるんですか?」
顔を上げた女性は田尾七海(27歳)といった。大手出版社に勤務しており、女性向けファッション誌の編集者をしているという。
「小五郎、彼女は困っているんだ。ちょっとだけでいいから、話を聞いてやってよ」
顔の前で手を合わせる澤田に、僕は仕方なく観念することにした。
「…それで、何があったんですか?」
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