
~日本における医療の弱みはウェルビーイングの浸透で改善できる~
医療が苦手とするウェルビーイングを浸透させていきたい
金丸:堀江さんは帰国されてからも第一線でご活躍されています。手術の実績を積まれるだけでなく、男性ホルモンに注目し、「メンズヘルス外来」を立ち上げられました。
堀江:「医療」と聞くと、多くの人は病気の治療を思い浮かべると思います。ただ、これまでの経験から、病気を治療することよりも、ウェルビーイングのほうが求められているのではないか、と考えるようになりました。
金丸:ウェルビーイングって、身体的にも精神的にも社会的にも良好で、幸福な生活を送れる状態を指す言葉ですよね。
堀江:たとえば、金丸さんにガンが見つかって、抗ガン剤治療をすることになったとします。その治療の開始日に、個人的に大事な予定が入ったとしたら、金丸さんはどうしますか?
金丸:治療の予定をずらしてもらうようお願いしますね。
堀江:金丸さんならそうでしょう。そして経験則として、そういう人はガンが治る確率が高いんです。でも、9割の人は自分の予定をキャンセルして、治療を優先します。
金丸:そうなんですか。
堀江:日本人のほとんどが、ガン治療を生活の中心にしてしまいます。一方で、不思議なことに、ガンって真正面から向き合うとなくならないんだけど、忘れるというか、自分のことを優先していると、抗ガン剤治療をしなくても転移していたガンが消えてしまう人が実際にいるんです。
金丸:不思議ですね。病気のことをずっと考えるより、自分にとって楽しいことや価値のあることを満喫しながら過ごしたほうが、病気や健康にとって結果的にプラスになるということでしょうか?
堀江:そう思います。ただ、従来の医療は、必ずしもウェルビーイングを向上させることが得意ではありません。ガン治療では検査のたびに、データが良くなった、悪くなったとか、ガンが大きくなった、小さくなったとかいう話を聞くことになります。それ自体が、患者にとってものすごいストレスなんです。
金丸:大変な思いをしているのに効いていないとなれば、さらにがっかりしてしまう。
堀江:医者も悪気があって、そんなことをしているんじゃない。だけど、もう少しどうにかできないものかと思います。
金丸:人によって、何を大事にしたいか、何を幸せに感じるかは違います。型にはめて考える医師では、対応が難しいかもしれません。患者一人ひとりの価値観に寄り添って解決策を提示してもらえると、本当にありがたいです。
堀江:だから、私はウェルビーイングを可視化することができないかと考えていて。たとえば心臓の脈拍って、そのパターンを調べると、幸福を感じているかどうかが分かるんです。スマートウォッチのセンサーに組み込んで脈拍を計測できるようになれば、自分がどのくらいハッピーなのか、タイムリーに分かるようになるはずです。
金丸:面白いですね。「この人と話すとハッピー度が上がるから、もっと話しかけよう。反対にこの人と話すとアンハッピーになるから、できるだけ避けよう」みたいなことが現実に起こるかもしれない。
堀江:もうひとつ、興味があるのが「ファスティング」です。簡単にいうと、食事を何日間か制限するんですが、目的はやせることではなく、腸内細菌をリフレッシュさせることなんです。
金丸:それは糖質制限とは違うんですか?
堀江:糖質制限ダイエットにはいろいろな問題がありますが、私としては、テストステロンという男性ホルモンが減少することが、一番の問題だと感じています。テストステロンが減ると、筋肉量が減って老化が進んでしまうので。
金丸:リバウンドしてしまう人もいますよね。
堀江:ファスティングには、アンチエイジング効果が期待されています。「老化」と聞くと、今ある細胞が年をとっていくようなイメージがありますよね。でも実は、高齢であっても体の中に若い細胞を持っている。ただ、それを活性化させないストッパーがあるんです。
金丸:ファスティングは、そのストッパーを外してくれるんですか?
堀江:その可能性があるんですよ。ウェルビーイングの向上のために、ファスティングに加えて、ヨガやさまざまなリラクセーションなどをパッケージにして提供するのもいいなと考えています。
金丸:それは楽しみですね。お母様のガンの疑いが晴れたときの経験から、堀江さんは医師を志しました。これからも医療界全体をより良い方向に引っ張ってもらいながら、日本を少しでも明るくしていただければと思います。今日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。