肉の哲学者たちが表現する、珠玉の肉料理 Vol.3

肉の哲学者たちが表現する、珠玉の肉料理

軽い脂質の黒毛和牛を三段階火入れで洗練させる

左.肉選び 最重要条件は脂の軽さ

右.和牛のビステッカ¥16,000~のコースより。焼けた表面としっとりした切り口は7:3の黄金率でカット

【肉選び】
和牛のビステッカに使うのは、月齢32カ月の黒毛和牛のメス、ランクはA4の上。A5は原田シェフにとって、脂が多すぎるという。脂質の軽さ、きめの細かさ等、肉自体への条件が細かい分、安定供給を得るため産地指定はしない。今回は秋田県産。リブロースからサーロインまでを毎回、ほぼ一頭単位で仕入れ、屠畜後30日程熟成させ、10日〜2週間ほどで使い切る

「肉は部位によって、料理の表現方法がまったく違う」

肉について問うた時、幾度となく原田慎次シェフの口から出た言葉が、それだ。

例えば押しも押されぬ看板となった和牛のビステッカは、今回披露してもらったように炭火とヒートランプを使い、三段階に火入れする。提供する際には、一見生肉が現れたかのようなプレゼンテーション。だがこれも、食べた際の食感や脂のバランスを考慮してのことだ。

「肉も魚も、生の時点では本来の風味、個性は控え目だが、火入れすることで脂の存在感や旨みが前面に出てくる。その塩梅が、大切」と原田氏は言う。炭火焼きをメインにすえた『アロマクラシコ』時代に研究を重ね、以来、約8年。

「黒毛和牛のロースなら、現在の手法がベスト」と言い切る。この皿が現れる前に必ず供されるのが、レモンとパッションフルーツなど、柑橘系のソルベ。「和牛の甘みがダイレクトに感じられるから」と原田氏。頭骨を貫く刺激的な酸味で口を洗い、新たな気持ちで肉に対峙せよ、との明快なメッセージが伝わる。

「肉焼き術はみんな、焼肉屋で学んだ」とおどけるシェフ。オフでも研究を怠らぬ彼の、明快なひとつのゴールがここにある。

左.切る 焼き目と赤身のバランスを重視

右.焼く 炭とヒートランプで三段階加熱

【焼く】
今回はリブロースに近い部分。コース内で提供するため、2名分なら厚さ4.5センチ、約200gを切り出して焼く。炭火で全体を約5分焼いた後、46~48度のヒートランプの下で45分~1時間加熱。火入れ時間は脂質で異なり、軽ければ強めに、重ければ軽くする。切り方は後述するが、提供する際に残す焼いた面の水分を飛ばすため、最後に再度、炭火で炙る

【切る】
焼き上がった肉の焼き面を、上下を残し、削ぎきる。直接炭火にあたって脂が香ばしく焼けた部分を3割、じっくりと火入れをした結果、柔らかく、かつ生と見紛うほどの深紅を保持した内部が7割となるよう、バランスを取るためだ。7:3の比率が、肉のなめらかな舌ざわりを強調する。最後に中心から二分割し、1人前約60gのビステッカが2人分、完成する

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