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17時過ぎ。
仕事を終えた沙耶香は、周りに気を使いながら「お疲れさまです」と挨拶をすると、急いで渋谷駅へと向かった。
母親たちにとって、夕方から21時までが、1日の第2ラウンドなのだ。
小学校1年生の美桜をアフタースクールに迎えに行った後、スーパーに寄って食材を購入。
帰宅後は、美桜の宿題を見ながら夕食作り。
夕食後は後片付けをし、美桜をお風呂に入れて自身も烏の行水で風呂に入り、本の読み聞かせをして、就寝させる。
その後は、掃除や洗濯物を畳むなど、残った家事を片付け、持ち帰った仕事を夜中までやるのが沙耶香の日課だった。
「はー、疲れた…」
23時。
沙耶香は真っ暗な寝室に、スマホのライトをかざしながらそーっと入ると、寝ている美桜を起こさないように、自分もベッドに潜り込む。
そして、ぼーっと彼女の寝顔を見て、今日の疲れを癒やすのも、また彼女の日課だった。
― 子どもが小さいうちが勝負よ。
真子の言葉が頭に蘇る。
美桜は今6歳。でも沙耶香に再婚する意思などなく「2人で楽しいからいいよね」と呟いた。
その時、スマホがベッドの隙間に滑り落ちた。沙耶香がベッドの下を覗き込むと、スマホの光で薄く照らされた細長い紙が見えた。
― 何だろう…?
手を伸ばし、その紙を拾ってみる。それは七夕の時に作った短冊の残りだった。
何気なく裏を向けると、幼い字でこう書かれていた。
「あたらしいパパをください」
その文字を見た途端、沙耶香はさまざまな感情に襲われた。
拓人はここ1年ほど美桜との面会にさえ来ていない。
これまでは父親がいない分、沙耶香が父親代わりになれるよう、精いっぱい努力したつもりだった。
けれど、美桜もまだ父親にも甘えたい年頃。簡単には、父親の穴は埋められなかった。
しかも、沙耶香が頑張っているのを知っているせいで、美桜は正直な気持ちを直接ぶつけることができず、短冊に書いて、1人で願っていたのだ。
「ごめん…美桜…」
沙耶香はそっと美桜の頭を撫でる。
その時、由梨からのLINEが入る。
『Yuri:婚活パーティー、一緒に行かない?というか、もう申し込んじゃった』
由梨の行動力に、沙耶香は思わず笑う。
『Sayaka:Ok. じゃあ行ってみようかな』
すると、すぐに返信とともに、URLが送られてきた。
『Yuri:再婚者限定のはいっぱいだったから、こっちにしたよ』
URLをタップすると、そこにはこう書かれていた。
「年齢、性別、婚歴、何でもあり!結婚したいという情熱があれば、誰でも参加OK」
沙耶香はその文面に、何だか嫌な予感がした。
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この記事へのコメント
こんなジャンクな集まりによく申し込んだな😂