
「自分だけが取り残されているような気持ちになる」俳優・竹中直人が追い求めた人とは
「いやぁ、またいい店を見つけちゃいました。神楽坂にはいつも出合いがありますね」
「ちっちゃい人間なんです。今日のインタビューのように静かにじっくり語るのも嫌いじゃないけど、どこかに予定調和を壊したいと思う自分もいる。
シリアスな芝居をやるときはいまだに恥ずかしいと思うし。おい、気取るんじゃねえよって、ね」
それを聞いて知りたくなった。憧れてきた人物像はいかなるものか。
「不貞腐れた顔が色っぽく見える人。忌野清志郎が『たばこを吸いながら いつでもつまらなそうに たばこを吸いながら いつでも部屋に一人 ぼくの好きな先生』と歌った、あの感じ。
満たされることに抗おうとしているのか……どこかつまらなそうに見える。人生を楽しんで生きるとか、そんな次元にいない人になんとも憧れます」
「皆から評価されているものを後追いするのはつまらないじゃない」
すでにインタビューが始まってからかなりの時間が経過していたが、それからもしばらく話は尽きなかった。
「僕はひねくれ者なんだろうけど、みんながイイと言っているものを後追いするのが好きじゃない。
だってそれ、誰にでもできちゃうじゃないですか。自分が気に入った映画がランキングに入っていなかったら、『やった!知られてない』ってうれしくなっちゃう。
去年観た中だと『ファイブ・デビルズ』『アフター・ヤン』『MEN 同じ顔の男たち』。好きな映画は映画館で2回観るんですけど、2回ともガラガラだとたまらない。僕だけの映画になった気がして。
自分が監督した映画がそれだと困る……本当に矛盾しているんです」
竹中さんは高らかに笑い、店を去った。
自分の“好き”を大切にし、ときめき続ける人の後ろ姿はまぶしく、そしてひたすらに格好良かった。
■プロフィール
竹中直人 1956年生まれ。神奈川県出身。多摩美術大学美術学部卒。1983年、テレビ朝日系バラエティ番組『ザ・テレビ演芸』でデビュー。コメディアン、俳優として活動する一方、映画監督としても異才を放つ。3月17日より10本目の監督作『零落』公開予定。
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