4.店中を包み込む一流の出汁の香りに癒される@南青山
『伯雲』
閑静な住宅街の中という驚きのロケーションにあり、さらに出汁の香りに包まれるひと幕もある和食店『伯雲』。
孤高の存在感でふたりの夜を魅了する。
暗闇の中でぽつんと灯る温かな明かりが、人を呼び寄せる
目の前でシャカシャカと音を立て、鰹節が削られる。「どうぞ」と削り立てのふわふわを、笑顔で差し出す店主の坂本慎吾さん。
口に含めば、柔らかい口溶けにまず驚き、口いっぱいに広がる強い旨みと香りにまた驚く。
静かに湯気を立てる鍋に入れれば、店中に出汁の優しい香りが充満。体ごと包まれる、この感覚も初体験だ。
素材の味を最大限に引き立てた、実直な料理に心打たれる
「前菜」は伊勢海老と海老芋。
殻付きでサッと炙ったエビは半生のところもあり、食感のコントラストが楽しめる。
鯛とあん肝を盛り合わせた「お造り」。
肝あえの要領で酢橘ポン酢と食べれば、コリコリの歯応えと濃厚な旨みが味わえる。
坂本さんが料理で最も大切にする、美味しさの要は「香りと食感」。出汁はその場で引くなど、一つひとつの料理で手間は惜しまない。
例えば、鴨なら火入れは何度も。まず皮目を繰り返し焼いて余計な脂を完全に抜き切り、バキバキと音がするほどクリスピーな食感を作る。
身はわらで燻して香りをまとわせ、続いて炭火でサッと炙り、みずみずしく。
仕上がりはいたってシンプルだが、その実、驚くほど繊細に素材を扱い、持ち味を極限まで高めている。
提供直前に出汁を引く「お椀」の種は、松葉ガニのしんじょう。
2品目の「お造り」は鰹の塩たたき。薬味に大葉や茗荷、玉ねぎなどの針切りを添えた。
ラストの「焼物」が鴨。青森・三戸の「銀の鴨」を使用。当たりの柔らかい海塩で食べる。
すべて「おまかせコース」(28,600円)より。
目の前で削られる鰹節の香りに、心が静かにざわめいてくる
程よい水分を含んだ鹿児島・指宿の本枯節を使用。摩擦熱による劣化を防ぐため、複数本を用意する。
利尻昆布で丁寧に引いた出汁と合わせる。
南青山を進んだ先にある和食店で、一流の料理を楽しむ悦楽
「技術的なことは最小限です」と笑うが、『龍吟』出身の腕は確か。
この隠れ家には、ふたりを夢中にさせる驚きの日本料理が待っている。