SPECIAL TALK Vol.98

~分野を問わず、そのときの自分にできることを。あらゆる経験を生かしてフードロス問題に挑戦したい~

令和のニューリーダーたちへ


世界中の誰もが知る名優、アル・パチーノ。彼が主演・監督した映画『ワイルド・サロメ』のプロデューサーとして、ひとりの日本人女性が名を連ねた。

山田早輝子氏はもともと映画やエンターテインメント業界で活躍していたわけではない。

大学卒業後、語学留学のためアメリカに渡り、慈善活動に長年携わる一方で、声をかけられたら分野にとらわれず、自分にできることを確実にこなしてきた。

その結果、ハリウッドで誰もが知る著名人や有名人の作品にもかかわるようになった。

そんな山田氏の次なる挑戦は食。フードロス解決のための会社を日本に設立した。

華々しい活躍を続ける山田氏の素顔に迫りながら、日本の食が抱える問題について掘り下げる。

山田早輝子氏 聖心女子大学卒。住友商事退社後、アメリカ、イギリス、シンガポールで18年過ごす。慈善活動に長く取り組み、非政府系の非営利団体としては全米最大の「ミールズ・オン・ホイールズ」、さらに1909年設立の南カリフォルニア日米協会の最年少ボードメンバーを務める。サー・リチャード・ブランソン(Sir. Richard Branson)とイブ・ブランソン主催のVIRGIN UNITEを立ち上げ、チャリティのチェアを務めたほか、ショーン・ペン氏とハイチ大統領とのハイチ復興視察等、幅広く活動。さらにアル・パチーノ主演・監督映画『ワイルド・サロメ』(国際映画祭 Jaeger LeCoultre Glory to the Filmmaker Awardを受賞)を手掛け、現在、米国ワーナー・ブラザース社とハリウッドで『進撃の巨人』プロデュース中。


金丸:本日は株式会社FOOD LOSS BANK代表の山田早輝子さんをお招きしました。お忙しいところ、ありがとうございます。

山田:こちらこそ、お招きいただき光栄です。

金丸:今日の対談の舞台は元麻布にある『すし 田いら』です。大将は「ザ・リッツ・カールトン京都」や青山の『海味』で腕を振るってきた平 公一さん。鹿児島県徳之島出身ということで、鹿児島で育った私は親近感を覚えています(笑)。

山田:料理もとても楽しみです。

金丸:山田さんは慈善活動からハリウッド映画のプロデュースまで、幅広く活躍していらっしゃいます。のちほど掘り下げてお聞きしますが、まずはFOOD LOSS BANKについて簡単に教えてください。

山田:はい。FOOD LOSS BANKは、食品ロスを削減して環境を改善するための会社で、2020年に立ち上げました。

金丸:私としては、NPOやボランティア団体ではなく、株式会社というのがいいなと。

山田:現在も非営利活動に携わっているので、非営利を否定しているわけではありません。ただ、社会課題の解決と企業の成長を両立させたいという思いから、株式会社というかたちを選びました。

金丸:日本だとすぐに「売名行為だ」とか「きれいごとを言うな」とか言われがちですが、「いいことをしてお金を儲ける」のは全然悪いことではありません。

山田:おっしゃるとおりです。私も「良いことをする」=「寄付やボランティアでまかなう」という構図に限界を感じていました。だから、特定の誰かが負担するのではなく、かかわった全員がちゃんとWin‐Winになるシステムを作ってみたいな、と。

金丸:FOOD LOSS BANKは立ち上げてすぐに、ハイブランドとのコラボが話題になりましたね。

山田:味や安全性にはまったく問題ないのに、規格外というだけで廃棄されてしまう食材が、日本各地にたくさんあります。そうした食材を『アルマーニ リストランテ銀座』や『ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン』、「パレスホテル東京」などで使ってもらっています。

金丸:ハイブランドがかかわっている取り組みだと、単に「フードロス問題を解決しよう」と言われるのとは違って、受け取る側の印象も変わりそうです。

山田:どうしたらひとりでも多くの人に行動を起こしてもらうかを考えると、性善説や正議論だとやっぱり限界があって、企業の成長につながらないと難しいと思ったんです。それに、地球上の富裕層10%が地球全体の52%の温室効果ガスを出している一方で、全人口の50%にあたる貧困層の排出量は、全体の10%にも満たないとされています。

金丸:いわゆる富裕層にも働きかけないと、この状況は変わらないんですね。プライベートジェットやクルーザーを持っている人にリーチするという意味でも、良い戦略だと感じます。ところで、フードロスやフードバンクという言葉はありますが、「FOOD LOSS BANK」という社名はちょっと変わっているというか、ひねっているというか。

山田:バンクという言葉には、知識が蓄積されるという意味もあります。だから「フードロスの正しい知識を蓄積していこう」「みんなの小さい積み重ねが世の中を変えられる」という願いを込めてつけました。日本人って、「自分がアクションを起こすことで何かを変えられる」という実感を持っている人が、少ないように感じます。

金丸:特に環境問題だと「私だけがやっても意味がない」とか、「私は我慢しているのに、ほかの人はずるい」と考えてしまうかもしれません。

山田:でも一人ひとりが、食べ残さない、買い過ぎない、賞味期限が切れていても消費期限が切れていなければ使い切ることをちょっと意識するだけで、だいぶ変わるはずなんです。

金丸:日本のフードロスは、今どのくらいあるんでしょうか?

山田:食べられるのに捨てられている食品が、年間で約570万トンにものぼります。

金丸:数字が大き過ぎて想像すらできない。

山田:国連やいろいろな国が発展途上国に援助している食料の約1.2倍に相当しますね。

金丸:そんなに!なんとももったいない。

山田:そうなんですよ。しかもそのうちの半分くらいが、家庭から出ています。

金丸:それを聞くと、一人ひとりの意識が大切というのがよく分かります。今日は山田さんの生い立ちから今に至るまでを伺いながら、フードロスをはじめとする食の問題について意見を交わしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

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