東大卒の夜遊びコラムニスト・ジェラシーくるみが書下ろす『もう、港区女子と呼ばないで』

「もっといい人がいるはず」港区で遊べるのはいつまで?

蓋をひっくり返してみると、誰しもが容姿やキャリア、実家の複雑な親子関係やただれた恋愛に心を消耗していたのだが。

楽しそう、幸せそうと思われるために振る舞い、表面張力ぎりぎりで日々を過ごすのは20代前半特有の病なのだろう。


社会人2年目の頃だったか。六本木で同棲していた彼とひどい別れ方をして「もっといい人がいるはず」とひたすら飲み歩いていた私を見かねたのか、年上の既婚男子が助言してくれたことがある。

「ここら辺で遊ぶと、イケメンもいれば実家が極太の奴、投資ファンドで億稼いでる奴、センスあって面白い奴とかいろいろいるじゃん。それに慣れた女の子は、各分野のいいとこ取りをした、全種目で優勝できる人間が存在するって勘違いするんだよね」

ぎくっとした。私は五角形のグラフが隙間なく塗りつぶされた満点の男を探していたのかもしれない、と。

栄養バランス満点のコーンフレークみたいな男は存在しない。


そして20代も半ばに差し掛かると「港区の遊びは25歳が賞味期限」の定説が嫌でも頭をよぎる。

「25か。港区遊びはそろそろ卒業だね」と初対面の私に忠告する、余計なお世話オブザイヤー受賞おじさんにも遭遇した。

その脂ぎった横っ面にパンチをかますべきだったが、私は自分の金でここに住み、自分の金で高い鮨にも行くんじゃ!と自分のささやかなプライドを取り戻すのに精一杯だったおかげで、右手を痛めずに済んだ。


アラサーになってからは心にも財布にも余裕が生まれ、遊び方も徐々に変わってきた。

なかなかにアングラな西麻布のバーや、極めて下品でハイクオリティな芸を体験できる赤坂のゲテモノスナック、脚がぶつかりそうな距離でポールダンスを観られる鳥居坂下の真っ暗な狭小酒場。夜遊びの幅は自分の知恵と工夫次第でいくらでも広がるのだ。

そして麻布十番の商店街や南青山の裏通りなど、白昼の娯楽も尽きないのが港区のいいところ。


憧れの夜の街に足を踏み入れ、街の磁場にビリビリしびれたあの日。あれから幾星霜、港区を卒業するどころか、いまだ住民税を払い続けている。

深夜の『ボストーク』で男の愚痴を吐き合っていた悪友たちとは、真っ昼間の『天現寺カフェ』で資産運用やシミ予備軍について話すようになった。

「もっといい人はいねぇが〜」という身の程知らずなナマハゲ症候群から脱した私は、他者へのジャッジが諸刃の剣だとようやく学んだ。自分の内に潜む傲慢モンスターとの闘いの戦果だ。

嫉妬の手放し方や寂しさの手懐け方だって、ずいぶん上達した。


この魔都・港区で摩擦を繰り返し、サンダルを履き倒した夏の足の裏くらい分厚く硬くなったツラの皮。

あの失礼オジの言葉も、今なら鼻で笑えるかもしれない。賞味期限?塩漬けにでも燻製にでもしてやりますのでご心配なさらず、と。

■プロフィール
ジェラシーくるみ 著書『恋愛の方程式って東大入試よりムズい』(主婦の友社)が好評発売中。Twitter ID:@graduate_RPG48

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