Twitterで大反響!麻布競馬場が書き下ろし『背伸びして住んだ麻布十番の思い出』

「本物の東京」とはなんだろう?

この間、本を出した。東京に暮らす20人の挫折や諦めを描いた短編集。褒められることもあれば叩かれることもある。

「麻布競馬場は本物の東京を知らない」

そんなことを言われた。では本物の東京とはなんだろう?

僕に言わせれば街というのは本であり、それはプルーストの『失われた時を求めて』よりも長くて、日々古いページが新しいページに差し替えられる魔法の本で、人間ごときの一生のうちにそれを読み切るなんてことはできやしない。

そこには芳醇な内面性があり、それに惹かれて近づいても、そのすべてを理解するなんてことはできやしない。

そうして傷ついてもやはり離れがたく、また近づいてしまう。街にはそういう魔力がある。ある街の本質を理解できる、なんて思うことは傲慢だとすら思う。

われわれは街をさまざまに消費しているようで、実のところ街という恐ろしく大きな機構を生かし続けるためにお金を落とし続けるだけの、哀れなミツバチに過ぎないのかもしれない。


この夏、事情があって麻布十番から引っ越すことになった。でも引っ越し先は隣町の白金高輪で、麻布十番へは今でも歩いて行けるし、結局ほぼ毎晩麻布十番で飲んでいる。

でも最近は「若者の麻布十番離れ」が進んでいるらしい。みんな代々木上原や学芸大学でラムパクチー焼売なんかをつつきながらオレンジワインやクラフトビールを飲むらしい。

令和は肩の力の抜け感がトレンドらしい。だから、肩にバツバツに力の入った”麻布十番デート”みたいなのは流行りじゃないらしい。


「麻布十番って東カレっぽいよね(笑)」そんなことを言われたとき、僕はニヤリと笑ってこう返す。

「麻布十番が東カレっぽいだけの街だと思ってるならまだまだだね(笑)」。

そうして僕の長い長い麻布十番談義が始まり、みんな一様にダルそうな顔をする。愛する麻布十番のためなら喜んで嫌われ者になろうと思う。東カレだって同じ気持ちだろうと思う。

何かを愛するものの背中は、いつだって必死で、いつだって誰かから笑われていて、そして少しだけ格好良い。

■プロフィール
麻布競馬場 1991年生まれ。著書『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)が好評発売中。Twitter ID:@63cities

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