“インスタ映え”が流行語大賞に選ばれたのは、もう5年も前のこと。
それでもなお、映えることに全身全霊をかける女が、東京には数多く存在する。
自称モデル・エリカ(27)もそのひとり。
そんな彼女が、“映え”のために新たに欲したのは「ヨガインストラクター」という肩書だった―。
エリカは、ヨガの世界で“8つの特別なルール”と出合う。しかし、これまでの生活とは相いれないルールばかりで…。
これは、瞑想と迷走を繰り返す、ひとりの女性の物語である。
Vol.1 「私に200万、投資して!」
「うぅ…、頭いたぁ」
目が覚めると、ひどい二日酔いだった。
ひとりで飲んで、寝落ちしてしまったようだ。空いたお酒の缶や瓶が、床に散乱したままになっている。
― 今、何時…?
部屋は、すでに明るくなっていた。私は、ベッドの中からスマホに手を伸ばす。
「8時か…」
体を起こしながら、Instagramを開く。
昨夜、投稿したPR案件の手応えを確認するためだ。
レモンイエローのナイトブラを身につけた、バストアップの写真。上にカーディガンを羽織っているとはいえ、胸の谷間も、お腹もそこそこ露出している。
なかなかスタイルよく映っている、自慢の1枚でもある。
だから、朝には、フォロワーが一気に増えて、“お知らせ”も相当盛り上がっているだろうと期待していた。
ところが…。
「うそでしょ?」
“いいね”の数は1,000ちょっと。コメントは60件。予想の半分もいかない数字を、目の前に叩きつけられた。
フォロワーが7万人もいるわりに、注目度が低い。
しかも「エリカさん、何か微妙。無理がある」とか「この手の投稿はお腹いっぱいです」といった、悪意のあるコメントも目立つ。
ショックを通り越して、憤りを覚えた私は、スマホをベッドの隅に投げつけた。
― 何なのよっ、モデルの私がここまでしてるっていうのに!
転がり落ちたスマホが、ピノ・ノワールの空き瓶に当たって、大きな音を立てる。
同時に、そのスマホから、けたたましい着信音が鳴り響いた―。
この記事へのコメント