なんとなく、DINKS Vol.1

なんとなく、DINKS:「子どもはまだ?」の質問にうんざり!結婚3年目、32歳妻の憂鬱


トイレに行くと、案の定…。

「あ~あ~、今月も来ちゃったかぁ」

いつも通りの周期で、生理が来ていた。

ガッカリするような、ホッとするような、複雑な感情が湧き上がる。

結婚して3年目。夫婦仲は良好、コロナの直前に結婚式を済ませたし、新卒から働いている今の会社でのキャリアも長くなってきた。いつ妊娠したって支障はない状況だ。

“妊活”というほど力を入れて取り組んではいないものの、「いつか子どもができたらいいね」と祐樹と言い合いながら、日々を過ごしてきた。

― でも正直、今の生活だって気に入ってるんだよね。

夫婦ともに外資系企業で働いていることもあり、私たちは同世代の夫婦の中でもそれなりに裕福な方だと思う。祐樹は年収1,500万円、私も1,000万円を稼ぐ。

乃木坂のこのマンションは、2LDK・65平米の広さだ。それなりに値ははったものの、ペアローンで購入することができた。ショッピングも外食も、旅行だって、かなり自由に楽しめている。

お互い仕事は忙しいが、共働きだからこそ、互いにそのツラさを理解しあえているのだ。

ここに、“子ども”が加わったら、と考えると、楽しみではあるが、この優雅な生活を失うかと思うと不安もある。

悶々とした思いを抱えながら、ダイニングに向かう。

「彩奈?大丈夫?」

「あ…。ううん、なんでもない」

心配そうな表情の祐樹に、私は笑顔で返す。本腰を入れて妊活に取り組んでいるわけでもないから、自分の体のサイクルのことは、祐樹にいちいち伝えてはいない。


祐樹との出会いは、早稲田のバスケットボールサークルだ。お互いに商学部だったこともあり、同期としてずっと仲良くしてきた。

在学中は特に付き合うことはなかったけれど、28歳の時にサークルの集まりで再会した。そこから、何度か会ううち自然と付き合う流れになり、30歳で結婚した。

お互い忙しいなか、うまくやっていけているのは、そうやって長いこと築き上げてきた関係性のおかげかもしれない。

「今日の同窓会さ、健司も来るらしいよ。茨城から東京に戻ってきたんだって」

「あ、そうなんだ。知らなかった」

祐樹がつくってくれたふわふわの卵焼きを口に運んでいると、彼がふと思い出したように“健司”の名前を口にした。


健司は、私の大学時代の元カレだ。

元カレといっても、付き合っていたのは大学2年から3年の1年程度。

教育学部の彼は卒業後、大手通信会社に就職し、営業職として新卒から栃木や茨城の支店などを転々としていた。

もちろん、祐樹も私と健司が付き合っていたことは知っている。

「うん。あと、この前子どもも生まれたらしい」

「…ふーん」

祐樹の言葉に、私は相づちだけ打つ。

― そっかぁ。健司と“あの子”もついに、子どもを持ったんだ。

友人の出産のニュースなら手放しでお祝いできる私だけど、今回は喜びや祝福の気持ちに加えて、複雑な感情が胸に湧き上がった。

それは、相手が元カレの健司だからか…。

あるいは、“あの子”の話だから、だろうか。

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