同窓会で
「わぁ、彩奈!久しぶり~!」
「みんな、コロナ前以来だね!元気にしてた?」
18時。
高田馬場の『Café Cotton Club』に到着すると、3階席は既にサークルのメンバーでにぎわっていた。
学生時代もみんなでよく来たお店だから、なんだか感慨深いものがある。
幹事が簡単な挨拶とともに乾杯の音頭をとると、私たちは一同にグラスを持ち上げた。その後はしばらく、食事をしながら昔話に花を咲かせる。
少し離れた席にいる祐樹も、旧友との交流を楽しんでいるようだ。
「彩奈、久しぶり!ここ座っていい?」
始まって1時間ほどしたころ、隣にいた友人が移動して席が空いたところに、背後から声をかけられた。
見ると、健司が立っている。
「健司!いいよ、ここ座りなよ」
健司とは別れてもう10年。お互いに違う恋愛をいくつも経ているから、自然と会話ができる。
「東京に戻ってきたんだって?」
「うん。本社の企画部に異動になったんだ。長年、地方を回ってきたけど、しばらくは東京にいることになりそうだよ」
「よかったじゃん。ずっと戻ってきたがってたもんね」
彼の栄転を、私は素直に祝福した。
実際、入社して数年間の健司は、慣れない地方での仕事に、いつも苦労していると聞いていたから。
「彩奈は、相変わらず外資で働いてるの?ずっと東京?」
「そうだね、私は地方に行くことはないかな」
「いいよなあ、祐樹もコンサルだから、地方に転勤ってことはないだろ?うらやましいなあ」
「プロジェクトによっては、長期出張で地方に行くこともあるみたいだけどね」
だとしても数年転勤するよりはマシだよ、と健司は言う。「たしかにそうかもね」とうなずいていると…。
「彩奈!私もここ、座っていい?」
聞き覚えのある声がした。振り向くと、予想通り――。
「レイナ。もちろん、どうぞ座って」
彼女も同じサークルの同期で、健司の妻だ。
健司と話しているうちに、反対隣の席が空いたらしい。レイナがそこへ座ると、私は夫婦にはさまれる格好になった。
「そうだ。2人とも、子どもが生まれたんだって?おめでとう」
「えへへ、ありがとう。今4ヶ月になったところ。今日は私の両親が家まで来て面倒見てくれてるの」
レイナは、嬉しそうに報告する。
「息子と健司を幸せにできるように、私、ママ業頑張ろうと思う!」
色々と苦労もあるのだろうが、はじけるような笑顔のレイナが、妙にまぶしく感じられる。
そして無邪気な笑顔のまま、彼女は小首をかしげた。
「彩奈たちは、子どもはまだ考えないの?」
「えっと…」
― 出た、この質問…。一体なんて答えれば、満足するの?
返答に迷っていると、レイナは目を輝かせながら“子育ての良さ”を力説する。
「子育ては、思った以上に良いよ~。大変なこともあるけど、それ以上に赤ちゃんはかわいいし。親のサポートも得られるから、なんとかやれてる!彩奈も絶対、子どもができたら親に頼ったほうがいいよ!」
私は顔に笑顔を貼り付けて、その話を黙って聞き続ける。
― レイナって、昔からこういうところ、あるのよね…。
レイナは、所沢キャンパスにある人間科学部出身だ。実家もその近くにあるそうだが、週に何度も、サークルのために所沢から早稲田まで通っていた。
後で聞いた話だが、レイナは1年のときから健司のことがずっと好きだったらしい。彼に会うために、都内に出てきていたそうだ。
だが、2年の夏合宿で、健司と私が急接近して、彼と付き合うことになった。
レイナはそれでも健司のことを想い続け、最終的には彼の妻の座に収まった。
けれど、その時の心のしこりが取り除かれていないのか。レイナはいつも微妙に、私に対して張り合ってくるのだ。結婚の時期や、結婚式の規模。指輪の大きさなど…。
― でも、“子ども”の問題はそんなものとは比較にならないほど、デリケートなものなのに。
黙りこくっていると、何かを勘違いしたのか…周りの友人たちが、私の周りに集まりはじめた。
「おお、彩奈夫婦、子どもできたの?」
「結婚式からしばらく経つし、たしかにもう“そういう時期”だよな~!」
周りの言葉に、いたたまれない気持ちになる。
私はその場から、逃げ出したくなっていた。
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