「お酒、飲みます♡」なんてセリフは、もう死語?
萌ちゃんが呼んでくれたのは、西麻布で開催されるという3対3の食事会だった。お相手は、スタートアップ系企業の経営者とのこと。
いつもよりカジュアルな服装を心掛けたけれど、何があるかはわからない。とりあえず靴はピンヒールにした。
しかしお店へ足を踏み入れた瞬間、自分が完全に場違いだったことに気がつく。
「遅くなってすみません…」
「あ!沙羅さんですよね、初めまして」
出迎えてくれた萌ちゃんは、ナチュラルな髪色のミディアムボブで、とにかく肌の透明感がすごい。手のひらサイズの小さな顔に、こぼれ落ちそうなほど大きな瞳。
そして洋服は、今流行りのオーバーサイズ。ゆるっとしたシルエットが、まさに今ドキの“男ウケしそうな女の子”だった。
「か、可愛い…」
思わずそう声に出してしまうと、彼女は屈託のない笑顔を私に向けてくれた。
「そんなことないですよ〜!沙羅さんこそ。美穂さんからお話は聞いてましたが、すごく美人さんですね♡とりあえず、男性陣も来てるので座ってください」
勧められるがままに奥の個室へ入ると、そこには全員Tシャツにカジュアルなパンツといった、ゆるい装いの男性3人組がいた。
「初めまして、沙羅です」
「よろしくお願いします!沙羅ちゃんは1杯目、何飲みますか?」
「じゃあ、とりあえずシャンパンを…」
港区での1杯目といえば、シャンパンに決まっている。当たり前のことを聞かれ、一瞬戸惑ってしまった私。でも、驚くのはまだ早かった。
「シャンパンか…。グラスであったかな」
「えっ!?」
今日の参加者は、男女3名ずつの合計6名。だから女の子の誰かが「シャンパンを飲みたい」と言えば、まずはボトルで1本頼む。
そして自動的に、みんなシャンパンで乾杯するというのが、港区では暗黙のルールだったはず。
「…あの。皆さんはシャンパン、飲まれないんですか?」
「あぁ。僕は車なので、ノンアルで」
「僕はハイボールかな~」
「私は薄めのハイボールで!」
お酒が飲める子=楽しくてモテる子の概念が、ガラガラと音を立てて崩れていく。男性から呼ばれた食事会では、気分が乗らなくてもお酒を飲んで盛り上げてきた。
でもみんな、平然とノンアルなどを頼んでいる。それはまさに新世界だった。
「沙羅さん。ソバーキュリアスって言葉、ご存知ですか?飲めるけど、あえて飲まない。アルコール度数0%の飲み物もあるし、無理に飲まなくて大丈夫ですよ」
萌ちゃんがそっと耳元で教えてくれたけれど、衝撃が大きすぎてどう反応すればいいのかわからない。
そして、この日の帰り道。完全アウェイだった私は、当然誰からも連絡が来ることはなく…。しょんぼりしながらマンションのゲートをくぐる。
「どうしよう…」
この素敵なゲート付きの家とは、あと3ヶ月でオサラバだ。でも今日の食事会に参加してみて、急に自信がなくなってきた。
乾杯は、シャンパンで。
こんな当たり前のルールが不正解になる日が来るなんて、思ってもみなかった。
そうは言っても、迷っている暇はない。とりあえず私は、港区の新たなスタンダードを学ぶことにしたのだ。
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この記事へのコメント
あのキューティーのように、自分の借りられる範囲で6畳一間のボロ家とか賃りて、派遣でも何でも始めた方が良くない?
グラスであったかな?って、この男もケチくさいなぁ。シャンパン頼んじゃ悪いのかよってね。
沙羅、頑張れ!
来週はハイブランドのバッグをバカにされる展開かな?嫌な思いをしてまでお食事会に行くことないのにねぇ。