「30.5」
これは、東京における女性の平均初婚年齢。
多くの女性が、その年齢までに結婚をと、自分の道を決めていく。
一方で、「30過ぎてまで、何やってるの?」と言われてしまうような、どうしようもない恋愛から抜け出せない人がいるのも事実。
他人には言えない心の葛藤、男女の関係――。
30歳を過ぎた。でも私は、やめられない。
少し痛いけれど、これが東京で生きる女のリアルなのだから。
Vol.1 優里亜、32歳。彼女はなぜ、この恋愛にしがみつくのか?
「優里亜ちゃん、やっと彼女になってくれたね~!待ちくたびれたよ」
今日は山本との初めてのデート。
彼は、都内3ヶ所でメンタルクリニックを経営している医師で、年齢は51歳。
私が働いている銀座8丁目の会員制バーに3ヶ月前に初来店し、そこから週1で私のことを口説いてきた男だ。
私たちは、麻布十番にある完全会員制の『鮓 ふじなが』に来ていた。
久しぶりの高級寿司は、感動的に美味しいし、特別感のある空間と雰囲気にもテンションが上がる。
― はぁ、これこれ。やっぱりこういう生活が私には合ってるわ。
私は、一貫一貫しみじみと味わった。
「そういえば、優里亜ちゃんの家って、この辺だよね?」
「うん。南麻布だよ」
「もし僕が家賃出してあげるって言ったら、銀座のお店、辞めてくれる?」
― おっ?キタキタ…!
私はこれを待っていた。別に好き好んで51歳の年上男と付き合いたいわけではないのだ。
「あ~やっぱり、銀座のお店で働いているのとかって嫌だよね。じゃあ、山本さんのために辞めちゃおうかな」
そう言った途端に、山本は目尻にシワを作りながら、満面の笑みをこちらに向けた。
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