2022.05.20
SPECIAL TALK Vol.92父譲りの「死にゃあせん」。ユニークな体験を伝えていきたい
原:留学期間が終わり外務省に戻ってからは、ガーナの日本国大使館で勤務したいと訴え続けまして。周りの協力も得られたおかげで実現し、休日にはボナイリ村での活動を続けることができました。
金丸:たまたま行き着いたボナイリ村ですが、そこで村の人たちとつながりができたことで、原さんの人生が変わったんですね。
原:本当にそうですね。ただ任期が終われば、日本に戻らないといけない。そしたら、NGОの活動も中途半端で終わってしまう。そう考えて、外務省を辞める決意をしました。それからご縁のあった総合商社のヨハネスブルグ支店で2年働いたり、半年ほどドバイに拠点を置くアフリカの会社に勤めたり、貿易・投資両面からさまざまな新規事業開拓、開発に携わりました。
金丸:その後、独立して「SKYAH」を起業されます。NHKの番組をきっかけに海外に興味を持ち、アフリカの村と運命的に出合い、それから一貫してアフリカに関わり続けていらっしゃいます。いろいろな魅力があるからこそだと思いますが、原さんにとって、アフリカの一番の魅力はなんですか?
原:とにかくエネルギッシュ。アフリカに行くと楽しいし、すごく元気になる。私にとっては、パワースポットみたいなものです。日本をはじめ先進国では何かに挑戦しようとするとき、できない理由をつらつら並べがちですよね。でもアフリカだと、毎月のお給料が必ず入ってくる人はほとんどいないので、自分が何かに挑戦して始めないことには、プラスにもマイナスにもならない。リスクを言い訳にしないというアフリカ人の気質が、私の性に合っているように感じます。
金丸:NGO活動は10周年とのことですが、いかがですか?
原:「MY DREAM.org」は、寄付に依存するのではなく、自分たちの売上で自走できる状態になりました。やはり事業を続ける上で採算性は欠かせませんから。
金丸:それは素晴らしい。10年でそれが実現できるというのは、なかなかないことですよ。そうなると、原さんのことですから、また新しい挑戦をしたくなるのでは?
原:まさに(笑)。最近では、日本人のアフリカに対するイメージとか意識を変えたいと考えています。幼稚園生から大学生、さらには年配の方にアフリカについて話をする機会があるのですが、その中で気づかされたのは、「アフリカはかわいそう。助けてあげなきゃ」という目線です。それが小学3、4年の頃までに出来上がってしまっていて。
金丸:それこそ、現場から遠く離れた“上から目線”ですね。
原:そうなんです。この思い込み、アンコンシャス・バイアスをなくしたいんです。実際のところアフリカは、日本人が思っている以上に近代化が進んでいます。昨年の9月、コロナが一旦落ち着いたときに久々にアフリカに出張したのですが、ものすごいショックを受けました。ガーナに入国するときは、検査を含めて45分ですべての手続きが完了し、空港を出られたんです。ところが日本に戻ってくると、空港を出るまで4時間かかりました。ガーナの方が遥かにデジタル化が進み、明らかにチェック体制やシステムが洗練されていて。果たしてアフリカから来た留学生がこの状況を体験したら、留学先に日本を選んだのは間違いだったと思わないか、心配です。
金丸:なるほど。まさに“上から目線”ではいられませんよね。アフリカに学ぶことは多くあります。たとえば、アフリカで生まれた起業家、アフリカに戻ってきた起業家の話を聞くと、日本の若者は挑戦することを恐れて、成長の機会を失っているように感じます。
原:挑戦を恐れないといえば、父の口癖は「死にゃあせん」でした。だから「やってみぃよ」と。
金丸:お父様、いいキャラクターですね(笑)。
原:父だけじゃなくて、私の家族はみんなそんな感じです(笑)。私が「アフリカに行く」と言ったときも、誰一人反対しなかったんですよ。一度、高校留学を反対されたこともあって、ちゃんと理論武装して臨んだというのもありますが、きちんと説明したら、「じゃあ、行ってきなさい」と。
金丸:誰ひとり反対せずに夢を応援してくれるなんて、素敵な家族ですね。
原:だからユニークな経験をさせてもらったぶん、その恩返しをしていきたいです。アフリカと違って、日本は何かやったところで命を脅かされる心配はないし、頑張っていれば、それを見た誰かが助けてくれます。本当に無理かどうかは、やってみなきゃ分からない。今治の子どもたちに話すときは、伊予弁で「そんなん、無理かどうかはやってみんと分からんよ」と言っています。
金丸:素晴らしいですね。日本の中にいて日本だけ見ていたら、気づけないことがたくさんあるでしょう。アフリカでなくとも、少し違う環境に身を置くことで世界は広がります。原さんのこれまでの挑戦が、多くの人に勇気を与え挑戦を促す。そんな循環が生まれるように、私も応援させていただきます。今日は本当にありがとうございました。
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