
妻と女の境界線:結婚3年目の32歳女が、夫に秘密で通う“ある場所”とは
とはいえ、OB・OG会の場で、圭吾くんとそれ以上話すことはなかった。
正直言って、彼のことが気になる気持ちはあった。しかし、たくさんのゼミ関係者がいる中で、10歳も年下の現役大学生にガツガツ近寄っていくのは気が引けた。
何よりも、彼のことがいかに気になろうと、私には浩平という夫がいる。
彼との出会いはお食事会。男性4人・女性4人という構成で、男性は浩平と同じ商社マン、女性は私と同じ損保OLという構成だった。
浩平以外の3人は皆、イケメン・スポーツ万能・コミュニケーション能力抜群の営業マンたち。浩平だけが、東大卒・財務畑の人間らしく寡黙に構えていた。
当時29歳を目前に控えていた私は、結婚相手を真剣に探していた。浩平を見た瞬間「結婚するならこんな感じの人がいい」と、直感的に思う。
彼のほうも、そう思ったのかもしれない。その会に参加していた女の子たちは、読者モデルやミスコン出身者ばかりで華やかな顔ぶれだったが、唯一、特に読モでもミスコン出場歴もない私に連絡してきた。
そうして付き合い始め、一緒に時間を過ごすうちに、年齢も年齢なので自然と結婚する流れになった。とんとん拍子にプロポーズされ、出会ってから1年ほどで入籍を果たす。
役所に婚姻届を提出した瞬間、湧き上がってきたのは、喜びや浩平に対する愛情よりも「無事に結婚できた」という安堵だった。
その日以来、私を選んでくれた夫に感謝し、彼にとって常に良き妻であろうと決意したのだ。
確かに、OB・OG会の日、射すくめられるような目で圭吾くんに見つめられた瞬間、大きく心を動かされた。でも、私は浩平の妻だ。夫を支え、彼と共に生活する日常に満足しているし、それを崩す気は毛頭ない。
偶然の出会いについ心乱されてしまったが、圭吾くんとは“カフェの客と店員”という、今まで通りの距離感を保とうと決めた。
そんなことなど知る由もない彼は、今日のように無邪気にプライベートな話を振ってきたりする。
― でも、話しかけられたら、うれしくなっちゃう自分がいるのよね。
圭吾くんに手渡された温かいコーヒーとパウンドケーキを手に、なんともいえない気持ちで店を出た。
◆
小さな違和感
18時。定時に仕事を終えて帰路につく。
「ただいま~」
浩平は遅くなると言っていたから、家には誰もいない。
彼と一緒に食卓を囲める時は、平日であっても必ずきちんと食卓を整え、最低でも一汁三菜は準備する。
専業主婦家庭で育った浩平は、料理の味に神経質で、化学調味料を好まない。だから味噌汁は出汁から取るし、肉や野菜も家から少し離れたオーガニックスーパーでそろえる。手間はかかるが、1人で食事する時は手を抜くなどして、なんとかやっていっている。
― 今日は1人ゴハンだから、適当にうどんでも作ろうっと。デザートに、圭吾くんに勧められたパウンドケーキ食べようかな。
朝の家事時間は大好きな私だが、仕事で疲れ切った夜は、可能な限り自分を甘やかしたいと思ってしまう。
食事をしながらNetflixでも見て、のんびり過ごそう…と思った瞬間。
「ただいま。あ、麻由帰ってたんだ」
「え、浩平?今日は遅いんじゃなかったの?」
遅くなると言っていた夫が、まだ19時過ぎだというのに帰ってきた。完全に1人ゴハンの気分になっていた私は、夫の帰宅に内心ガッカリしてしまう。
「たまたま、会食の相手方がコロナにかかっちゃったみたいでさ。キャンセルになったんだ」
「あら、大変ね。それは仕方ないわね」
その時には、食事の準備のことで頭がいっぱいになっていたから、上の空で彼の説明を聞き流していた。
― 今日、“会食”って言ってたっけ?
頭の片隅に小さく浮かんだ疑問は、頭の中で組み立てていた夕食の献立にかき消されていったのだった。
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夫に小さな違和感を覚える麻由。一方、圭吾との関係が動き出す…。
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この記事へのコメント
でも三鷹在住とかスタバとか、東カレにしては何か設定が珍しいね。
それもダブル