6a6a9d43d58924e3f14e2de25f8a95
妻と女の境界線 Vol.1

妻と女の境界線:結婚3年目の32歳女が、夫に秘密で通う“ある場所”とは

Comment regular63
Favorite regular
推しの男


「いらっしゃいませ。あ、麻由さん!いつもありがとうございます!」

「おはよう、圭吾くん。今日も早番なのね」

新宿南口・サザンテラスにあるコーヒーショップ。

この付近のビルで働く私は、ほとんど毎日のようにこのお店に立ち寄り、コーヒーを購入する。出勤の前後やお昼休み、外出の帰りなど…我ながら、かなりのヘビーユーザーだと思う。

私は昔から、コーヒーが好きだ。

集中したいときは深煎りの豆を、逆にリラックスしたいときはすっきりした飲み口のものを。

そんなふうに気分に合わせて選んだコーヒーを体に入れると、自然と気持ちが前向きになる。

「麻由さん、今日の豆は何にされますか?おすすめはこのエチオピアなんですが…」

「うーん、そうね。圭吾くんが言うなら、そうしようかな」

「それから、この抹茶のパウンドケーキもおすすめですよ。お仕事の合間とか、夜のおやつにもぜひ!」

「商売上手ねえ。じゃあ、それもお願いします」

けれど…最近は大好きなコーヒー以上に、“圭吾くん”を目当てに、このお店を訪れているところがある。


長くこのお店に通っているが、アルバイトの圭吾くんを見かけるようになったのは、ここ1年ほどのことだ。彼はもともと近隣の店舗で働いていたが、そこが閉店になったので、移ってきたのだという。

見た目は、男性アイドルグループにいそうな、子犬っぽい、優しい顔だ。夫の浩平は、彫りが深く眉毛も濃いキリッとした俳優顔だから、まさに正反対。

それまで私は、浩平のような見た目の男性がタイプなのだと思っていた。けれど、圭吾くんの顔を見た瞬間、本能的にときめいてしまったのだ。それ以来、彼は私の“推しメン”になっているのだが…。

「そういえば、麻由さん。飯山教授、麻由さんたち先輩に会いたがってましたよ。今年度も、OB・OG会を企画しますね」

他のお客さんが並んでいないのをいいことに、圭吾くんが声を落としてプライベートな話をしてくる。私は、少しだけドキドキしながら、「そうなのね」とだけ返事をした。


3ヶ月ほど前、母校である慶應大学、法学部政治学科のゼミのOB・OG会が開催された。

以前は年に1度必ずあったその会も、コロナ禍になりしばらく開催されていなかったので、私も久しぶりの参加となった。

だから、会場の受付を担当していた現役ゼミ生の中に、圭吾くんの姿を見つけたときは、すごく驚いた。

そして圭吾くんも、私と目が合った瞬間、目を丸くする。

「あれ…毎日お店に来てくださる方ですよね?」

「そうです。こんなところでお会いするなんて、びっくりですね」

こんな偶然、あるのだろうか。どぎまぎしながら、なんとか言葉を返して受付を済ませる。

しかし彼のほうは、大して動揺していないように見えた。淡々とした様子で受付リストを確認して、私の名前が記された名札を取り出している。

― そりゃ、そうよね。私は彼のことを勝手に推しているけど、彼からすれば、ただの常連客の1人でしかないよね…。

何かを期待していたわけではないのに、勝手に落ち込んでしまう。そんな自分に気づくと、「夫がいるのに、私ってば何考えてるの?」と、今度は自責の念が芽生える。

そうして悶々としていると、圭吾くんが爽やかな笑顔で私に名札を手渡してきた。

「麻由さん、お店の外でもお会いできて嬉しいです。改めて、よろしくお願いします!」

その時……。

普段、店員としてコーヒーを手渡してくれる時とは、彼の目が少しだけ違っていた。瞳の奥に、一瞬どこか男っぽい輝きを見たような気がしたのだ。

鋭い目に、捉えられた瞬間……私は、しばらくその場を動けなかった。

「この人のことを、もっと知りたい」と本能的に思ってしまったのだ。

この記事へのコメント

Pencil solidコメントする
No Name
不倫ネタは勘弁だな〜。
でも三鷹在住とかスタバとか、東カレにしては何か設定が珍しいね。
2022/06/04 05:2682Comment Icon5
No Name
浩平さん、残業が会食に変わっている。こっちも怪しいのか?麻由が圭吾にときめく程度なら推し活感覚でいいのかもしれないけど。
2022/06/04 05:3045
No Name
また不倫の話かな
それもダブル
2022/06/04 05:2130Comment Icon5
もっと見る ( 63 件 )

妻と女の境界線

結婚したら、“夫以外の人”に一生ときめいちゃいけないの?

優しい夫と、何不自由ない暮らしを手に入れて、“良き妻”でいようと心がけてきた。

それなのに・・・。

私は一体いつから、“妻であること“に息苦しさを感じるようになったんだろう。

この連載の記事一覧