2013.01.21
木原美芽の「東京ダイニングシーン」 Vol.1「クセ」になるのは、味か主か。神楽坂奥の中華バー
「クセ」になるのは、味か主か。神楽坂奥の中華バー
ドアを開ければ、「そんなに頻繁に来ちゃダメ。飽きちゃうでしょ」。白いごはんに鶏キモのタレかけて食べたいなー、「ウチは飲み屋なんだから、ごはんより酒飲みなさい」。
えー、じゃあ紹興酒のお燗、おかわり。「あのね、飲み過ぎだから」。
もうどうせいっちゅうのと、ふくれっ面してみせても、店に美味しさの磁力があるから主の佐藤洋さんには敵わない。最寄りは牛込神楽坂。都心の住宅地の一角だ。
黒板メニューは自家製腸詰とシュウマイ以外、日々微妙に変わる。「幾種類も素材は使わないし、調味料だって家庭にあるようなもの」と佐藤さんは言うけど、イチから全部自分で作る。仕込みは毎日午後1時から。
接客の女性はいても料理はひとり。「自分がやりたい店をやるって決めたから」。限られた時間と手間、だから彼にはルールがある。肉がメイン、酒が主役、ごはん・麺には手を出さない。『希須林』で20年料理人を務め、魚と野菜を使う中国料理はとことんやったのに、潔くばっさり。
夜が更ければ更けるほど、近所の住人がひっきりなしに現れる。街が、ちゃんと深呼吸して生きるには、こういう店が、必要なんだ。
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