ある事件を示談で解決した敏腕弁護士。しかし半年後、男の身に“まさかの災難”が…

美しすぎる女


地味なトレーナーを着ているにもかかわらず、伊集院美麗の容姿は、僕が今まで見た女性の中でもズバ抜けて美しかった。

真っ白な肌に、引き寄せられるように大きな目。黒目がちな瞳を引き立てる長いまつげ。幼い頃、母に何度も読んでもらった童話。そのヒロインの挿絵が脳裏に浮かぶ。

「はじめまして。弁護士の広沢です」

一瞬の沈黙が流れる。ピンク色の唇が、かすかに震えているのがわかった。

「寒いですか?」

僕の問いかけに、彼女はゆっくりと口を開く。

「…緊張してしまって。北海道生まれなので、寒さには強いんです」

「奇遇ですね。僕も地元は北海道です」

「知っています。それで今回お願いしたんです」

出身地が一緒だったこともあり、美麗とすぐに打ち解けることができた僕は、さっそく話を聞かせてもらうことにした。


あの日


「あれは、今年一番の寒波が押し寄せた25日の夜。20時頃のことでした。私は付き合って1年になる修平と、渋谷の道玄坂を歩いていたんです。

彼は、お酒を飲むと暴力を振るう人で…。この日も、どこかのホテルで強引に体を求められたあと、私の態度が気に入らないと2~3回殴られました」

そう言って目に涙をにじませる美麗の首を見ると、大きなあざがあった。

「それは、ツラかったでしょう…」

「それでも私は、修平を愛していました。彼の放送作家としての才能に惚れ込んでいましたし、暴力や女癖の悪ささえも、彼がいい作品をつくるために必要なことだと…。彼は私の王子様だったんです」

王子様。まるで少女のような表現に拍子抜けしていると、彼女は眉間にシワを寄せ、絞り出すように言った。

「でも、あの“秘密”だけは許せなかった」

「…秘密?」

「はい。修平は既婚者だったんです。彼がシャワーを浴びている間、スマホの通知が鳴って。それは、奥さんからのLINEでした。奥さんと娘がいることを私に秘密にしていたんです」

美麗の大きな目から、一筋の涙が流れる。

「…無理せず、ゆっくり話してください」

涙をぬぐい顔をあげた美麗は、僕の目を見つめた。すると、まるでその視線に射貫かれたかのように、僕は彼女と目を合わせたまま動けなくなってしまう。

「スマホを見られたことに気づいた修平が、急に殴りかかってきたんです。とっさに私は、ペンケースに入っていたカッターを取り出して…」

彼女は声をふり絞ると、細い肩をふるわせながら嗚咽し、アクリル板に頭を打ちつけ始めた。接見室の中に、バン!バン!という鈍い音が響く。

「先生、私をここから出して!」

美麗は警察官に両腕を抱えられ、部屋を出て行った。



「へぇ、なかなかディープな事件だね」

「彼女はこれまでにも、不倫相手であることを隠されて付き合っていたり、二股をかけられていたことがあったらしい。こんなに美しい女性なのに、ひどいもんだよな」

次の日の昼。事件の概要を話すと、杏奈は興味深そうに議事録と美麗に関する資料を読んでいた。

「…依頼人が絶世の美女だったから、いつも以上にやる気になってる、ってことね」

「いやいや、違うよ。彼女は既婚者であることを隠されていたうえに、暴力まで振るわれていたんだよ?彼女の首にはあざも残ってたし」

「冗談よ。ちょっと嫉妬しただけ」

頬づえをついた杏奈の手に、指を重ねる。

「杏奈さ。この仕事が終わったら、結婚しよう」

「やだ、職場でプロポーズ?やめてよ」

「じゃあ、また今度。あらためて」

すると彼女は頬を赤く染め、デスクへと戻っていった。

この記事へのコメント

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No Name
弁護士さんの腕次第で、冤罪って出来ちゃうんだなぁ…
そっちのほうが怖い
2022/02/28 05:5399+返信3件
No Name
怖いと言うか痛いと言うか。
会った男性にいちいちカッター持って迫ってたら怪我人だらけになるって。それこそ怖い女の噂になるよ。
2022/02/28 05:2558返信2件
No Name
興奮すると頭突きするのも怖い…
2022/02/28 07:3242返信3件
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