2022.01.22
Age33~分岐点の女たち~ Vol.116時ごろ、荻窪の自宅に戻り、雄介を迎える準備を始めた。
私は、国内大手食品メーカーに勤めて8年目だ。長く暮らした35平米・1DKのマンションはいつも居心地よく整えているから、掃除は手早く終わらせることができた。
― よし。あとは雄介の好きなビーフシチューをつくって…。
ルンルンと段取りを組んでいると、インターホンが鳴った。モニターをのぞくと、まだ17時前だというのに雄介の姿が映っている。
「え~、早く来るならそう言ってくれればいいのに!」
ぶつぶつ文句を言いつつ、オートロックの「解錠」ボタンを押す。
モニター越しに見えた雄介の表情は、心なしか暗いような気がした。
ほどなくして玄関の扉が開き、雄介が現れた。彼の姿を見て、私はいつも通りうっとりする。
― はあ、雄介ったら今日もイケメン。3年付き合っても見飽きることのない、このカッコよさよ…。
男性アナウンサーのように端正で清潔感のある顔立ちに、180cmの長身。昨年の冬にジルサンダーで購入したという黒いウールコートに身を包み、首にはカシミヤ素材のマフラーを巻いている。
「さ、雄介。そこは寒いから早く上がって…」
「ごめん、梨沙子」
しゃがみ込んでスリッパを並べていた私は、突然言われた予想外の言葉に顔を上げた。次の瞬間、雄介の短い黒髪が、私の鼻先をかすめる。
気づけば彼は、玄関のたたきに額をこすりつけて土下座していた。
「会社の女の子を、妊娠させてしまった」
雄介が何を言っているのか、理解できなかった。でも、初めて見る彼のこわばった表情をみて、重要な話なんだ、ということを認識した。
この3年間、雄介と私の関係はうまくいっていたと思う。
彼は、東大出身で、今は外資系不動産ファンドに勤めている。32歳にして、年収2,000万を稼ぐ彼と、大手とはいえ日系食品メーカーで営業として働く私は、普通に生きていると接点があまりない。
私たちが付き合うことになったきっかけは、お食事会だった。私は学生時代にサロンモデルをやっていたから、当時のツテでハイスペックな男性との出会いの場に呼んでもらえることが度々あったのだ。
「梨沙子ちゃん、メーカーで営業やってるんだね。かわいいのにバリキャリなんだ」
隣に座った雄介との初めての会話を、今でもよく覚えている。
何で生計を立てているのかよくわからない港区女子と並ぶと「お茶大出身、大手メーカー勤務」という私のスペックはプラスに働いた。当時29歳だった雄介にも好印象だったようで、彼からのアプローチで付き合うことになったのだ。
けれど、付き合ってから、結婚に持ち込むまでが大変だった。
付き合い始めたとき、私は27歳で、彼は29歳。30歳までに結婚したい私と、「結婚によって自由を奪われたくない」なんて言っていた雄介。それとなく結婚の話題を軽く振っても、はぐらかされてばかりだった。
私は、タイミングを見計らっていた。そして、付き合って2年目の終わりにそのチャンスが訪れる。
雄介が親友の結婚式に参加したあと、「なんか結婚も、悪くないかもなぁ」とぽろりとこぼしたのだ。その一言をきっかけに、私は猛攻を仕掛けた。親に会わせたり、ベタだけど結婚雑誌を買ってみたり。
すると、なんとなく彼もその気になってくれたのか、私の猛攻開始から3ヶ月が経つ頃、ついにプロポーズをしてくれた。
なんとか婚約までこぎつけ、結納も済ませた。
それなのに……。
「妊娠って…なんでそんなことになったの?これから、どうするつもり…?」
どこかまだ自分ごとだと理解しきれていない私は、妙に冷静に彼に尋ねる。
すると、彼は、力なく「ごめん」とつぶやいた。
「責任取って、その子と結婚する。梨沙子、本当に申し訳ないけど…別れてほしい」
「別れる?なんでそんな話になるの?いや、嫌だよ……」
心臓がバクバクと音を立てている。言葉を尽くして雄介の説得を試みた。
けれど、彼の決断は変わらなかった。
一晩経っても、1週間経っても、1ヶ月経っても……。
◆
衝撃の夜から1ヶ月後。
私の実家に両家が集まり、緊急会合が開かれた。泣きながら謝る雄介の両親に、うつむいて押し黙っている私の家族。とんでもなく重たい1日だった。
結局、公正証書を作成し、500万円を慰謝料として受け取ることで、私は彼との婚約を解消することになった。
500万円は相場より高いらしいが、私の価値をお金に換算された気分になり落ち込んだ。
それから、しばらくは暗い海の底にいるみたいだった。
光は見えないし、息苦しくて…。
雄介と一緒に歩く未来がなくなったことによって、どっちの方向に進んでいけばよいのかわからなかったのだ。
雄介の収入なら500万円は安いと思ったけどそうでもないのね。
結婚が決まってたのに、からの婚活はしんどいと思うけど頑張って欲しいな。
人それぞれだけど、美味しいならちょっとディープでカジュアルなお店も行ってみたいし。
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