SPECIAL TALK Vol.85

~自分のためではなく、チームそしてリーグのために。経営者としての強みを異分野で生かしたい~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。神戸大学工学部卒業。1989年起業、代表取締役就任。

自己実現のための仕事から、世の中をよくする仕事へ

金丸:それまで忙しかった島田さんが旅に出たからこそ、まったく違う分野から「今なら頼めるかも」と声がかかったことに、運命を感じますね。でも、それまで無縁だった業界に入って、今ではチェアマンまで務めていらっしゃる。どういう経緯があったのでしょう?

島田:千葉ジェッツは、千葉県初のプロバスケットボールクラブとして誕生しました。ただ、社内を見ていると、経営陣含めバスケットボールへの強い情熱はあっても、経営の知識や経験が足りないと感じました。

金丸:日本のスポーツは、まさにそこが弱点です。政府はスポーツを成長産業にしようとしていますが、スポーツ界には経営を学んだり、自ら経験してきたりという人材が圧倒的に足りません。それに、スポーツ庁はできたものの、管轄は文部科学省。これはスポーツを、学校教育である体育の延長としてしか捉えていないことの表れです。

島田:B.LEAGUEも2015年の発足まで、紆余曲折がありました。

金丸:実業団リーグとプロリーグが併存していましたよね。もちろん、スポーツの楽しみ方は人それぞれです。しかし、産業化するなら、実業団のようなアマチュア路線ではなく、プロリーグにするのが当然というのが、私の持論です。実業団は極端に言えば、大企業の福利厚生の一環です。それでは産業化して、チームはチームで稼ごうという発想になりません。

島田:そうですね。経営はひと言でいえば、稼ぐことと抑えることです。現状を見極めてプロセス管理を行い、目標を達成するために「稼ぐ=営業」と「抑える=経理」の2本柱でひたすら努力しないといけない。

金丸:それをマネジメントできるようになるには、訓練が必要です。いくら競技経験者でそのスポーツを盛り上げたいという気持ちがあっても、やはり難しい。

島田:まさに競技への情熱と経営の知識・経験、両方が必要なんです。情熱を持って取り組んでいる経営陣やスタッフを見ているうちに、手助けをしたいという気持ちが強くなり、最初は週1回の出勤だったのが、2回、3回と増えていって。2012年には、代表取締役に就任することになりました。

金丸:先ほど、旅を経て「世の中のために生きなきゃ」と感じたとおっしゃいました。まさにそれを実現させたわけですね。

島田:最初のうちは「世の中のため」というよりも、「目の前の組織のために」でしたが。

金丸:しかし、その後の10年で、日本のバスケットボール界は大きく変わりました。2014年には、国際バスケットボール連盟からリーグが併存している状態は不適切だと指摘され、日本選手がオリンピックをはじめとする国際大会に出場できないという大変な事態にもなりましたが、そこから激的に変わっていきましたよね。

島田:Jリーグで初代チェアマンを務めた川淵三郎さんが中心となり、両リーグ統合に尽力されました。その頃の私は一弱小チームの社長に過ぎず、リーグ自体をどうしようなんていう立場にはありませんでした。ただ、千葉ジェッツの体制を整えなおしていた5年の間に、バスケットボール自体への愛着も湧いてきて、徐々に「業界全体をよくしたい」という気持ちになっていきました。

金丸:それが、昨年のチェアマン就任につながるんですね。

島田:振り返ると、ハルインターナショナルを売却するまでは自己中心的に、自己実現のために会社をやってきたなと思いますね。でも、旅をしながらそういった生き方について、改めて考えなおしました。千葉ジェッツにしてもチェアマンにしても、ベースとなっているのは「世の中のために貢献したい」という気持ちです。千葉ジェッツだったら「千葉ジェッツを取り巻く全ての人たちと共にハッピーになる」、B.LEAGUEであれば「バスケットボールで日本を元気にしたい」というふうに。

リーグ改革に邁進しながら、未来についてはフリーハンドで

島田:私の前にB.LEAGUEのチェアマンを務めた大河正明さんは、元は銀行員です。出向を機にJリーグに移り、川淵さんとも仕事をされ、Jリーグの将来構想や体制強化に尽くされました。川淵さんはサッカー選手として、大河さんは中学・高校とバスケットボールの選手として活躍されたというバックボーンがある。そのおふたりと比較すると、私の場合は自分で会社を立ち上げて、経営してきたというのが強みです。

金丸:旅行からスポーツと業界は全然違いますが、チーム運営やリーグ運営は、つまるところ経営ですからね。

島田:いかにして価値を作り、いかにしてそれを世の中に伝え、いかにして売るか。頑張っている社員のモチベーションを上げ、働きやすい環境を作り、トップとして方向性を示して一丸となって進んでいく。要素を分解すると、業界は違ってもやるべきことは同じです。

金丸:これから先、B.LEAGUEは大きな転換点を迎えますね。

島田:はい。これまではJリーグのレギュレーションを参考にするかたちで、リーグ運営をしてきました。昇格・降格もJリーグに倣ってやってきましたが、2026年のシーズンからは、事業力でカテゴリーを分けるというシステムに変えます。

金丸:具体的にはどのようなことでしょう?

島田:たとえば最上位のB1に参加するには、「年間売上12億円以上」「1試合の平均入場者数4,000名以上」「収容人数5,000人以上、スイートルーム完備といった基準を満たすアリーナの設置」というようなライセンス基準をクリアすることが求められます。

金丸:競技成績ではなく、事業内容でカテゴリーを分けるというのは、当然、反発もあるでしょう。もちろん普通の体育館でも素晴らしいプレーが観られれば、観客は喜びます。でも、単なるスポーツ観戦ではなく、エンターテインメントとして成立させ、チームの経営状態を良好にすることが、日本のバスケットボールの発展につながるはずです。

島田:おっしゃるとおりです。ただ、目先の最優先事項は全クラブを存続させること。コロナ禍、多くのチームが苦戦していますから。

金丸:B.LEAGUEに関わられて、島田さんの人生は大きく変わりました。今後の人生について、こんなことがしたいと考えていることはありますか?

島田:たまに聞かれるのですが、本当にないんですよ。26年に向けたB.LEAGUE改革は私が先導しているので、そこまではまっとうしなきゃいけない。だけどその先は、それこそ千葉ジェッツと出合ったように、「ちょっと手伝って」と声をかけられれば、そちらに行くかもしれません。引き続きバスケットボール界に関わっていきたいという気持ちはもちろんありますが、何が何でもしがみつきたいという感じではないですから。

金丸:私もそうですが、島田さんも楽天家ですね。ネガティブ思考だと、「この先、どうなるんだろう?」と悩んで、何もできなくなってしまう。でもポジティブであれば、先が決まってないことをエンジョイできます。

島田:だから、思い切ってやりたいことをやるのが一番ですよ。やりたいことだけれど過酷な道と、興味はないけれど楽な道があったら、どうしても楽なほうに行ったりするじゃないですか。でも本当に自分がやりたい道を選べば開拓する力が湧いてくるし、たとえ失敗しても、いずれはプラスになるときが必ず来ます。うまくいくか、いかないか、結果がどうなるかばかりを考えてもしょうがないですからね。

金丸:競技は違いますが、同じスポーツ界で島田さんのような方が活躍してくださると、私も励まされます。これからB.LEAGUEが大いに発展していくのを楽しみにしています。今日は本当にありがとうございました。

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